協議・調停・裁判

離婚で裁判所鑑定になったら何が起きるのか──申立て・費用の予納・現地調査の時系列

調停が不成立になり審判や訴訟に進むと、裁判所が鑑定人を選任して不動産を評価することがあります。鑑定人を選ぶのは裁判所で、費用は求めた側が先に予納します。申立てから鑑定評価書提出までの流れと期間の目安、費用の負担、当事者側の私的鑑定との役割の違いを整理しました。

著者:吉田 健人·読了 約14
離婚で裁判所鑑定になったら何が起きるのか──申立て・費用の予納・現地調査の時系列

離婚調停で自宅の価格が折り合わないまま不成立になり、審判や訴訟に進む。そうなったとき、弁護士から「裁判所に鑑定を申し立てましょうか」と言われて戸惑う方が少なくありません。裁判所が鑑定をするというのは、誰が何をするのか。自分は何を用意すればよいのか。お金は誰が払うのか。すでに自分の側で取った査定書は無駄になってしまうのか。

結論から申し上げます。裁判所鑑定(裁判所が鑑定人を選任して命じる鑑定)は、当事者が自分で依頼する鑑定とはまったく別の手続きです。鑑定人を選ぶのは裁判所であり、鑑定人はどちらの味方でもありません。そしてその費用は、原則として鑑定を求めた側が先に裁判所へ納めます。数十万円から、対象や事案によっては百万円を超えることもある金額を、結論が出る前に用意する必要があります。

この記事では、申立てから鑑定評価書が提出されるまでに何が起きるのかを時系列で整理し、あわせて当事者側で依頼する私的鑑定との役割の違いをお示しします。全体像が見えていれば、費用を投じる判断も、待つ期間の見通しも立てやすくなります。

裁判所鑑定はどの手続きのどの場面で出てくるのか

まず押さえていただきたいのは、裁判所鑑定は「話し合いが決裂した後の手続き」に固有のものではない、ということです。調停の段階でも行われます。ただし、実際に使われる場面には偏りがあります。

調停・審判・訴訟の3つの場面

財産分与をめぐる手続きは、大きく3つに分かれます。ひとつめは家庭裁判所での調停で、調停委員を間に挟んだ話し合いです。ふたつめは審判で、調停が不成立になった場合などに、裁判官が判断を示します。みっつめは離婚訴訟に附帯して財産分与を求める形です。人事訴訟法第32条第1項は、離婚の訴えに伴って財産分与に関する処分を申し立てることを認めており、離婚そのものを争っている段階では、この形が使われます。

いずれの手続きでも鑑定は可能です。家事事件手続法第64条第1項は、家事審判の手続における証拠調べについて民事訴訟法の規定を準用しており、鑑定もこの証拠調べのひとつです。そして同法第258条第1項により、この規定は家事調停の手続にも準用されます。つまり調停の段階でも、裁判所が鑑定人を選任して鑑定を命じることは制度上できます。

それでも調停段階の鑑定は多くない

制度上できることと、実際に多いことは別です。調停は合意を目指す手続きですから、双方が「鑑定の結果に従う」と歩み寄れる見込みがあるときに限って鑑定に進みます。費用がかかり期間も延びるため、調停委員から積極的に勧められることは多くありません。

裁判所鑑定が現実に動き出すのは、価格の開きが大きく、その差額が分与額を左右し、かつ当事者双方が自分の主張する価格を譲らない場合です。調停の流れそのものについては離婚調停の流れと不動産の扱い──申立てから成立までに価格の話が出る場面で整理していますので、あわせてご覧ください。

申立てから鑑定人が決まるまで

鑑定は、裁判所が自動的に始めてくれるものではありません。当事者の申立てと、費用の準備が前提になります。

鑑定の申立てと採否の判断

当事者(実務上は代理人弁護士)が、鑑定を求める旨と鑑定の対象・鑑定事項を記載した申立てを行います。鑑定事項とは、鑑定人に答えてもらう問いのことで、財産分与であれば「別紙物件目録記載の不動産の令和○年○月○日時点における正常価格(市場で通常成立すると認められる価格)」といった形で設定されます。

採用するかどうかを決めるのは裁判所です。提出済みの資料で心証が取れると裁判官が考えれば、鑑定は採用されません。双方の査定書の金額が大きく食い違い、どちらの根拠も決め手を欠くと判断されれば、鑑定に進みます。

鑑定人は裁判所が選ぶ

鑑定人を指定するのは裁判所です(民事訴訟法第213条)。当事者が「この先生にお願いしたい」と指名できる仕組みではありません。規模の大きい家庭裁判所では鑑定人の候補者名簿が備えられており、その中から選任されます。名簿を備えていない庁では、地方裁判所の民事執行担当部から候補者の紹介を受ける運用がとられています。

ここが当事者側の鑑定と決定的に違う点です。裁判所鑑定の鑑定人は、どちらの当事者からも報酬を受け取りません。裁判所に対して意見を述べる立場であり、依頼者の主張を補強する役割は負っていません。

費用の予納がなければ鑑定は始まらない

鑑定人の選任に先立って、鑑定を求めた当事者が鑑定人の報酬相当額を裁判所に納めます。これを予納と呼びます。実務では、鑑定人候補者に事前に見積りを出させ、その金額を予納額とする扱いが一般的です。

金額は対象不動産の内容や事案の複雑さによって幅があり、数十万円から、規模の大きい案件では百万円を超えることもあります。予納がなされなければ鑑定は始まりません。「申し立てたのに動かない」という状態の多くは、この予納が済んでいないことによるものです。

鑑定人が動き出してから鑑定評価書が出るまで

予納が確認され、鑑定人が選任されると、ようやく調査が始まります。

現地調査には当事者の協力が要る

鑑定人は、対象不動産の内部を含めて現地を確認します。日程は裁判所を通じて調整され、その不動産に居住している側の立ち会いが求められるのが通常です。別居中で、相手方が住んでいる家を評価する場合、鑑定人が室内に入るためには居住者の協力が必要になります。

リフォーム履歴、増改築の有無、雨漏りや傾きなどの不具合、管理費・修繕積立金の状況は、いずれも価格に影響します。伝えたい事情がある場合は代理人を通じて裁判所へ提出しておくのが筋で、現地で鑑定人に直接訴えかけるやり方は適切ではありません。

鑑定評価書の提出と、その後の質問

鑑定人は調査と分析を終えると、鑑定評価書を裁判所に提出します。写しは双方の当事者に交付され、内容を検討する機会が与えられます。疑問があれば、書面で質問を出し、鑑定人に説明を求めることができます。必要と判断されれば、鑑定人が期日に出頭して尋問を受けることもあります。

全体の期間の目安

申立てから鑑定評価書の提出までの流れと、おおよその期間を整理すると次のようになります。

段階主な内容期間の目安
申立て・採否鑑定事項の提示、裁判所の採否判断期日1〜2回分
見積り・予納候補者の見積り取得、予納金の納付2週間〜1か月
選任・現地調査鑑定人選任、日程調整、内覧2週間〜1か月
分析・書面提出資料収集、価格の検討、書面作成1〜2か月
鑑定評価書の検討双方の検討、質問、必要なら尋問期日1〜2回分

期日が1〜2か月おきに入ることを考えると、鑑定を申し立ててから結果が手続きに反映されるまで、半年前後を見込んでおくのが現実的です。この期間は、審理の他の論点と並行して進みますが、価格の確定を待つ部分については足踏みになります。

費用は誰がいくら払うのか

予納する人と、最終的に負担する人は、必ずしも同じではありません。ここを誤解したまま費用を投じると、後で不満が残ります。

予納者と最終負担者は別

家事事件手続法第28条第1項は、手続費用は各自の負担とすると定めています。もっとも、裁判所は事情により負担のあり方を定めることができ、審判では鑑定費用を含む手続費用の負担が判断の中で示されることがあります。実務では、鑑定によって双方が利益を受ける性質を踏まえ、分担を命じられる例もあれば、予納した側の負担のままとなる例もあります。どう扱われるかは事案によりますので、申立ての前に代理人弁護士とご確認ください。

想定されるケースで見る「鑑定費用と分与額の関係」

首都圏近郊の戸建てを想定します。妻側が提出した査定は4,200万円、夫側が提出した査定は3,400万円、住宅ローン残高は1,500万円、分与割合は2分の1とします。裁判所鑑定の結果が3,800万円だったとして、金額を並べてみます。

前提とする価格純資産(価格−残債)2分の1の額
3,400万円(夫側査定)1,900万円950万円
3,800万円(裁判所鑑定)2,300万円1,150万円
4,200万円(妻側査定)2,700万円1,350万円

夫側の査定がそのまま通った場合と比べ、裁判所鑑定の価格が採用されれば分与額は200万円増えます。鑑定費用の予納が50万円だったとすれば、差し引きでも150万円が残る計算です。逆に、争っている価格差が小さければ、鑑定費用のほうが上回ってしまいます。鑑定を申し立てるかどうかは、この引き算で考えるのが実務的です。同じ考え方は20万円の鑑定費用は高いのか──費用対効果の考え方でも整理しています。

なお、この試算は分与割合や控除項目を単純化したものです。実際には特有財産の持ち込みや他の資産との通算があり、税金の扱いも絡みます。税務上の取扱いについては税理士にご確認ください。

当事者側の私的鑑定との役割の違い

「裁判所が鑑定してくれるなら、自分で鑑定を頼む必要はないのでは」と考える方がいらっしゃいます。これは半分正しく、半分違います。

誰の依頼で、誰に向けて作るか

両者の違いを整理すると、次のようになります。

項目裁判所鑑定私的鑑定(当事者側)
依頼者裁判所当事者・代理人弁護士
鑑定人の選任裁判所が指定依頼者が選ぶ
費用の支払い予納金から鑑定人へ依頼者が直接支払う
主な使いどころ審判・判決の基礎主張の裏づけ、交渉材料

どちらも不動産鑑定評価基準に従って作成される鑑定評価書であり、質が違うわけではありません。違うのは立場と、使われ方です。

私的鑑定を先に出す意味

私的鑑定には、裁判所鑑定にはできない役割があります。ひとつは、相手方の提出した査定が不合理であることを具体的に示し、交渉の段階で決着させることです。もうひとつは、裁判所に「この価格差は簡単には埋まらない」と認識させ、鑑定の採用につなげることです。根拠の薄い査定書を何通も並べるより、鑑定評価書を1通出すほうが動くことがあります。この点は弁護士が私的鑑定を依頼するときに伝えるべき7つの事項で詳しく扱っています。

費用を抑えたい段階では、価格等調査報告書(鑑定評価基準の一部を省略して作成する調査報告書。当事務所では10万円から15万円程度、税別)から始め、手続きが進んで正式な証拠が必要になった時点で鑑定評価書(20万円から60万円程度、税別)に切り替える選び方もあります。

裁判所鑑定の結果に納得できないとき

裁判所鑑定が出た価格が、自分の想定と大きく違うことはあります。その場合、まず行うべきは感情的な否定ではなく、鑑定評価書の中身を読み解くことです。採用された取引事例、時点修正や個別的要因の補正、建物の残存耐用年数の見方といった箇所に、説明が不足している部分や前提の取り違えが見つかることがあります。

私たち鑑定士は、こうした検証を目的としたセカンドオピニオン(5万円から、税別)も承っています。鑑定人を攻撃するためではなく、質問すべき点を絞り込み、代理人が的確な求釈明を行えるようにするためのものです。なお、鑑定評価書の評価をどう法的に争うかは訴訟活動そのものですので、弁護士にご確認ください。

まとめ

裁判所鑑定は、当事者が選べない鑑定人が、どちらの味方でもない立場で価格を示す手続きです。制度としては調停でも使えますが、実際に動くのは価格差が分与額を大きく動かす場面に限られます。申し立てれば自動的に始まるものではなく、費用の予納が入口になります。

要点を振り返ります。

  • 鑑定は家事事件手続法第64条第1項が準用する民事訴訟法の証拠調べとして行われ、同法第258条第1項により調停手続にも準用される
  • 鑑定人を指定するのは裁判所であり(民事訴訟法第213条)、大規模庁では候補者名簿から選任される
  • 鑑定を求める側が報酬相当額を予納する。金額は数十万円から百万円超まで幅がある
  • 申立てから鑑定評価書が手続きに反映されるまで、半年前後を見込むのが現実的
  • 手続費用は各自負担が原則(家事事件手続法第28条第1項)で、最終的な負担のあり方は事案により異なる
  • 私的鑑定は交渉段階での裏づけと、鑑定採用を後押しする役割を担う。裁判所鑑定と役割が重ならない

調停が不成立になりそうで裁判所鑑定を検討されている方、依頼者のために鑑定申立ての要否を判断される弁護士の先生にとって、判断の分かれ目は「争っている価格差 × 分与割合」と「鑑定にかかる費用と期間」の比較です。この比較は、対象不動産の概要が分かれば、正式な依頼の前におおよその見当をつけることができます。

裁判所鑑定を申し立てるべきか、先に私的な鑑定評価書を用意すべきか。離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。手続きの段階に応じて、価格等調査報告書・鑑定評価書・セカンドオピニオンのどれが適しているかからご一緒に整理いたします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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