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財産分与の請求期限は2年か5年か──離婚した日で変わる新ルールと逆算スケジュール

財産分与を家庭裁判所に請求できる期間は、2026年4月1日施行の改正で2年から5年に延びました。ただし適用の分かれ目は離婚が成立した日で、3月31日以前の離婚は従来どおり2年です。協議中も期間は止まりません。残り期間別に、評価と申立てをどの順序で進めるべきかを整理します。

著者:吉田 健人·読了 約13
財産分与の請求期限は2年か5年か──離婚した日で変わる新ルールと逆算スケジュール

「離婚のときは、とにかく早く別れることしか考えられませんでした」。数年が経ってから、そうおっしゃる方からご相談をいただくことがあります。家の名義も、ローンも、当時の評価額も、何ひとつ決めないまま離婚届だけを出してしまった。そして最近になって、財産分与には期限があるらしいと知り、慌てて調べ始めた──という経緯です。

このとき、インターネットで目に入るのは「財産分与は離婚から2年」という説明でしょう。ところが2026年4月1日、この期間を定めた条文が改正されました。いまは「2年の人」と「5年の人」が併存しています。そして、どちらが適用されるかを決めるのは、あなたが離婚した日です。

私たち鑑定士は法律の専門家ではありませんが、この論点からは離れられません。期限に間に合わせるには、家の価値を「いつまでに、どの精度で」出すかという逆算が必要になり、そこは私たちの仕事だからです。この記事では、まず2年と5年の分かれ目を整理し、次に残り期間別に何をどの順番で進めるべきかを示します。

「2年」と「5年」──あなたに適用されるのはどちらか

改正で、請求できる期間は5年に延びました

財産分与の根拠は民法第768条です。その第2項ただし書は、家庭裁判所に分与を請求できる期間を定めています。改正前は「離婚の時から2年」でした。

民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)により、この期間は「離婚の時から5年」に延長されました。施行日は令和8年、すなわち2026年4月1日です。離婚直後は生活の立て直しや子どもの環境の整備に追われ、財産の清算まで手が回らないという実情が、改正の背景にあるとされています。

同じ改正では、第768条第3項も書き換えられました。分与の額や方法を定める際に家庭裁判所が考慮すべき事情として、婚姻中に取得・維持した財産の額、その取得や維持への各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準などが条文に列挙されたうえで、「寄与の程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と定められました。実務で定着していた2分の1ルールが、条文の文言として明示された形です。

分かれ目は、離婚が成立した日です

延びた期間が自分にも当てはまるのか。ここが最も誤解の多いところです。

基準になるのは、離婚が成立した日です。相談を始めた日でも、改正を知った日でもありません。

  • 2026年4月1日以後に離婚が成立した方 → 離婚の時から5年
  • 2026年3月31日以前に離婚が成立した方 → 従来どおり離婚の時から2年

施行日より前に離婚した方には、改正前の規定がそのまま適用されます。「法律が5年に延びたのだから、自分も5年になったはずだ」という理解は誤りです。2024年や2025年に離婚された方は、いまも2年の枠の中にいます。断言します。ご自身の離婚日を、まず戸籍か離婚届の受理証明書で正確に確認してください。

年金分割の期限も、同じ日付で切り替わりました

見落とされがちですが、離婚時の年金分割の請求期限も、財産分与に合わせて2年から5年へ延長されました。適用の分かれ目も同じで、2026年4月1日以後に離婚した場合が5年、それ以前は2年です。

財産分与と年金分割は別の手続きですが、期限の設計が揃ったことで、同じスケジュールで考えられるようになりました。具体的な請求手続きは日本年金機構の窓口にご確認ください。

期限内に「何をすれば」間に合うのか

話し合いを続けているだけでは、期間は止まりません

ここが実務上、最も危険な落とし穴です。

この期間は除斥期間(権利を行使できる期間そのものに限りを設ける仕組み)と呼ばれるものです。消滅時効のように、請求や協議の合意によって進行が止まったりリセットされたりする仕組みは、原則として働きません。

つまり、元配偶者との間でメールのやり取りが続いていても、「近いうちに話し合おう」と言われて待っていても、期間は一日も止まらずに減り続けます。誠実に交渉を続けていたのに気づいたら期限を過ぎていた、という事態が現実に起こりうるということです。

求められているのは、家庭裁判所への申立てです

期間内に済ませなければならないのは、家庭裁判所への財産分与の調停または審判の申立てです。口頭やメールで「財産分与を請求します」と伝えるだけでは、この期間との関係では足りないと理解しておくべきです。

一方で、期限までに申立てさえ済ませていれば、その後の審理が期限を過ぎて続いても問題ありません。ここは重要です。「期限までにすべてを決着させなければならない」のではなく、「期限までに手続きの入口に立てばよい」のです。話し合いが平行線のまま期限が迫っているなら、合意を待たずに申し立てる判断があります。相手が交渉に応じない場合の進め方は財産分与の話し合いを拒否されたら──不動産があるときの進め方をご覧ください。

なお、期間の性質や個別の起算点の判断は法律問題です。必ず弁護士にご確認ください。当事務所でも、ご相談の内容に応じて弁護士のご紹介が可能です。

残り期間別・逆算スケジュール

申立てには財産の目録が必要で、不動産があれば「いくらと考えているか」を示すことになります。残り期間によって、そこで出せる資料の精度は変わります。

残り1年から6か月:鑑定評価書まで手が届きます

時間に余裕があるこの段階なら、不動産鑑定評価書の作成が選択肢に入ります。当事務所の場合、資料が揃ってからおおむね3週間から1か月を見込みます。費用の目安は20万円から60万円(税別)です。

相手方が強く争う見込みがある、あるいは複数の不動産があるといったケースでは、最初から証拠力の高い資料を用意しておくほうが、結果として早く着地します。

残り6か月から3か月:価格等調査報告書で足元を固めます

やや慌ただしい段階です。まず不動産の登記事項証明書と固定資産税の課税明細書を集め、並行して価格等調査報告書(鑑定評価基準に準拠しない簡略な価格調査の報告書)の作成を進めます。10万円から15万円(税別)、おおむね1週間から2週間が目安です。

この報告書は、協議や調停の初期段階で「おおよそいくらか」の共通土台を作るのに向いています。二つの資料の使い分けは価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのか──費用と「使える場面」で選ぶで詳しく説明しています。

残り1か月:まず申し立てる。評価は後から

この段階では、評価資料の完成を待ってはいけません。優先順位は明確です。

第一に、弁護士に相談して申立書を出すこと。第二に、評価はその後に整えること。申立ての時点では、固定資産税評価額や不動産情報ライブラリの取引価格情報をもとにした概算額を記載しておき、審理が進む中で正式な評価を提出する形で間に合います。

残り期間優先する行動用意する評価資料
1年〜6か月資料収集と評価の依頼鑑定評価書
6か月〜3か月弁護士相談と並行して評価着手価格等調査報告書
3か月〜1か月申立ての準備を最優先概算額+後日の正式評価
1か月未満申立てのみに集中申立て後に着手

なお、評価の時点をいつに置くかは、請求期限とはまったく別に決まる論点です。期限が近いからといって評価の時点が前倒しになるわけではありません。財産の範囲は別居時、評価は裁判時という原則と混同しないようご注意ください。

想定されるケース──残り2か月で動いた場合

以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。

前提

2024年11月に離婚が成立。改正前の離婚のため、期限は2年、残りは約2か月です。元夫名義のマンションが残っており、離婚時には「そのうち話し合おう」と言われたまま放置されていました。固定資産税評価額は1,850万円。

概算でいくらになるのか

手元の資料だけで当たりをつけるなら、固定資産税評価額からの割戻しが出発点になります。固定資産税評価額のうち土地の部分は、地価公示価格の7割程度を目安に評定するという考え方が総務省の固定資産評価基準の運用上とられています。7割で割り戻せば、公示価格水準の目安が得られます。

ただし、ここは正確に申し上げなければなりません。マンションの固定資産税評価額には、土地(敷地権)の部分と家屋の部分が含まれます。家屋の部分は再建築費をもとに経過年数で減価する方式で評定されており、市場での取引価格とは考え方が異なります。したがって、一体の評価額をまとめて7割で割り戻した数字は、かなり粗い目安にすぎません。実勢との乖離は、築年数や立地によって上下いずれにも生じます。

項目金額
固定資産税評価額(土地建物)1,850万円
7割で割り戻した粗い目安約2,640万円
ローン残高1,400万円
差引きの純資産の目安約1,240万円

2分の1で按分すれば、請求しうる金額はおよそ620万円という見立てになります。桁を確かめるための数字としては十分です。そして、これが期限を過ぎればゼロになる金額でもあります。

行動の順序

このケースで取るべき順序は、評価を待たずに申し立てることです。上の概算額を申立書に記載して手続きの入口に立ち、期限を確保する。そのうえで、審理の中で正式な評価を提出する。粗い目安を精緻な評価に置き換える作業は、申立ての後で足ります。順序を逆にして、評価の完成を待っている間に期限を迎えてしまうことだけは避けなければなりません。

期限が過ぎてしまったら、何も残らないのか

当事者の合意による清算は、妨げられません

期間が定めているのは、家庭裁判所に分与を求められる期間です。元配偶者が任意に応じるのであれば、期間経過後に財産を移転すること自体が禁じられるわけではありません。

ただし、この場合は財産分与としてではなく贈与として扱われ、課税関係が変わる可能性があります。税務上の取扱いは必ず税理士にご確認ください。

共有名義であれば、別の道が残ります

不動産が元夫婦の共有名義のままであれば、話は変わります。共有物分割請求という手段には、財産分与のような期間の定めがありません。共有者はいつでも分割を請求できるからです。

「財産分与の期限は過ぎたが、家の名義は2人のまま」という状態の方は、この道が残っています。詳しくは離婚後に残った共有名義を解消する──共有物分割請求という手段をご覧ください。

慰謝料は、別の期間で動きます

離婚に伴う慰謝料は財産分与とは別の請求であり、不法行為による損害賠償として民法第724条の消滅時効の枠組みで扱われるのが一般的です。財産分与の期限を過ぎていても、慰謝料の請求可能性が同時に消えるとは限りません。どの請求が残っているかの判断は弁護士にご確認ください。

まとめ

財産分与の請求期限は、2026年4月1日を境に2年と5年へ分かれました。そして、どちらが適用されるかは離婚が成立した日だけで決まります。期間は話し合いの最中も止まらず、間に合わせるために必要なのは合意ではなく家庭裁判所への申立てです。

要点を振り返ります。

  • 2026年4月1日以後の離婚は5年、3月31日以前の離婚は従来どおり2年(民法第768条第2項ただし書、令和6年法律第33号)
  • 年金分割の請求期限も同じ日付を境に2年から5年へ延長された
  • 除斥期間であり、協議を続けていても進行は止まらない
  • 期限までに必要なのは調停・審判の申立て。申立て後の審理は期限を越えてもよい
  • 残り3か月を切ったら評価の完成を待たず、概算額で申し立てを優先する
  • 期限経過後も、共有名義であれば共有物分割請求という別の道が残る

数年前に離婚され、家のことを決めないままになっている方。いま協議の最中で、相手が返事を引き延ばしていると感じている方。まずご自身の離婚日を確認し、残りが何か月あるのかを数えてください。残り時間によって、用意すべき資料の種類も、動くべき順序も変わります。

期限が迫る中で自宅の評価をどう間に合わせるか、依頼者の残り期間に合わせた資料の選び方をご検討の弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。残り期間をうかがったうえで、鑑定評価書と価格等調査報告書のどちらを、どの時点までに用意すべきかをご提案します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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