評価の実務

価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのか──費用と「使える場面」で選ぶ

不動産鑑定士が作る価格の書面は、基準に則る鑑定評価書と、基準に則らない価格等調査報告書の2種類だけです。いわゆる「簡易鑑定」の正体、費用10万円と30万円の差の中身、そして「誰に見せるか」で決まる選び分けの基準を、対比表と費用シミュレーションで整理します。

著者:吉田 健人·読了 約13
価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのか──費用と「使える場面」で選ぶ

「正式な鑑定ではなく、簡易なもので構いません」。離婚の財産分与に関するご相談で、たびたび出てくる言葉です。費用を抑えたいというお気持ちはよくわかります。ただ、いわゆる「簡易鑑定」という名前の商品は、制度上どこにも存在しません。

不動産鑑定士が作る価格の書面は、大きく2種類しかありません。不動産鑑定評価基準に則って作成する鑑定評価書と、基準に則らない調査の成果物である価格等調査報告書です。当事務所の料金でいえば、前者が20万円から60万円、後者が10万円から15万円(いずれも税別)。2倍以上の開きがあります。

この差はどこから生まれるのか。安いほうを選んで困るのはどんな場面か。この記事では、2つの成果物を法律上の位置づけ・作業の中身・費用・使える場面という4つの軸で対比し、選び分けの基準をお示しします。結論を先に申し上げると、判断の軸は費用ではなく「誰に見せるか」です。私たち鑑定士がご相談の最初にお伝えしている内容を、そのまま書きます。

2つの成果物は、法律上の位置づけからして違う

鑑定評価書は第3条第1項、価格等調査報告書は第3条第2項

不動産の鑑定評価に関する法律第3条第1項は、不動産鑑定士が不動産鑑定業者の業務に関して不動産の鑑定評価を行うことを定めています。同法第36条により、不動産鑑定士でない者はこの業務を行えません。いわゆる独占業務です。ここでの鑑定評価は不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める評価のルール)に則って行われ、その成果物が鑑定評価書です。

一方、同条第2項は、不動産鑑定士が不動産の客観的価値に作用する諸要因の調査・分析や、不動産の利用・取引・投資に関する助言を行えることを定めています。価格等調査報告書は、この第2項に基づく業務の成果物です。同じ鑑定士が作る書面でありながら、拠って立つ条文が違います。

表題に「鑑定」「評価」の語は使えない

基準に則らない価格等調査を行う場合のルールは、国土交通省「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」(価格等調査ガイドライン)と、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会「『価格等調査ガイドライン』の取扱いに関する実務指針」(平成26年9月)に定められています。

このガイドラインは、成果報告書に「鑑定評価書」という名称、金額に「鑑定評価額」という用語を使えるのは、基準に則った場合に限ると定めています。基準に則らない調査の成果物は「調査報告書」などの名称にしなければならず、金額も「調査価格」と表記します。名称の違いは商品名の工夫ではなく、守るべきルールなのです。

そもそも基準に則らないことが許される場面は限られる

ガイドラインは、基準に則らない価格等調査ができる場合として、依頼者の内部における使用にとどまる場合、公表・開示・提出されても利用者の判断に大きな影響を与えないと判断される場合、調査価格等が公表されない場合ですべての開示・提出先の承諾が得られた場合、基準に則ることができない場合、そのほか依頼目的や利用者の範囲等を勘案して合理的な理由がある場合、を挙げています。

裏を返すと、第三者に提出して判断材料にしてもらう前提の書面は、本来この枠に収まりにくいということです。ここが、あとで述べる「使える場面」の分かれ目に直結します。

中身はどこまで違うのか

調査の範囲

鑑定評価書では、現地調査、法務局調査、市区町村役場での都市計画・道路・上下水道の調査、取引事例の収集と分析を一通り行います。価格等調査報告書は、依頼目的に応じて範囲を絞り、机上の資料調査を中心に組み立てることが一般的です。

ただし、範囲を絞ること自体は手抜きではありません。価格等調査ガイドラインは、調査範囲に条件を付ける場合、その内容を依頼者と確定し、成果報告書に明記することを求めています。「室内には立ち入っていない」「登記記録以外の権利関係は確認していない」といった但し書きが並ぶのは、ルールに従っているからです。

試算価格の数と検証の厚み

基準に則った鑑定評価では、対象不動産の類型に応じて取引事例比較法(似た物件の成約価格から比べる手法)、収益還元法(家賃収入から逆算する手法)、原価法(建て直す費用から積み上げる手法)を適用し、複数の試算価格を調整して結論を出します。複数の角度から出した数字が近づくかどうかを確かめる工程そのものが、価格の説得力を作っています。

価格等調査報告書では、目的に照らして必要な手法に絞ることがあります。分譲マンション1室のように取引事例が豊富な物件であれば、取引事例比較法を中心に組み立てても、金額の目安としては十分に機能します。

責任の書き方

鑑定評価書には、担当した不動産鑑定士の氏名と登録番号、依頼者との利害関係の有無が記載されます。価格等調査報告書にも作成者の氏名は記載しますし、いずれも不当な調査を行えば同法第40条の懲戒処分の対象になり得る点は変わりません。

違いは、価格等調査報告書には「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価ではない」旨とその理由が明記されることです。読み手から見れば、この一文があるかないかが最大の差になります。鑑定評価書の読みどころは鑑定評価書には何が書いてあるのか──受け取ったら最初に見る5箇所にまとめています。

費用と性格を並べて見る

対比表

当事務所の場合の目安を、主な軸で並べます。

項目価格等調査報告書鑑定評価書
費用(税別)10万円〜15万円20万円〜60万円
拠って立つ条文法第3条第2項法第3条第1項
基準への準拠則らない則る
金額の呼び方調査価格鑑定評価額
主な用途方針決定・相場観の把握調停・訴訟への提出

鑑定評価書の費用は物件の類型で変わる

物件の類型による鑑定評価書の目安は、土地(更地)20万円から30万円、戸建住宅25万円から40万円、分譲マンション1室25万円から35万円、借地権・底地30万円から50万円、収益物件35万円から60万円です。権利関係が複雑になるほど分析の工程が増え、費用も上がります。

価格等調査報告書のほうは、机上調査を中心に組み立てるため物件類型による幅が小さく、10万円から15万円の範囲に収まることがほとんどです。この幅の狭さ自体が、作業範囲を絞った成果物であることの表れでもあります。

使える場面の分かれ目は「誰に見せるか」

自分の頭を整理するためなら、価格等調査報告書で足りる

話し合いを始める前に、そもそも自宅がいくらの資産なのかを把握したい。相手方が提示してきた金額が妥当な水準なのかを確かめたい。調停に進むかどうかを決める材料が欲しい。こうした目的であれば、価格等調査報告書で十分に機能します。読み手は自分と、せいぜい相談中の弁護士の先生だからです。

仲介会社の無料査定との違いは、作成者が鑑定士であること、価格の根拠が書面として残ること、そして売却の勧誘が付いてこないことです。査定書との性格の違いは離婚時の「無料査定」の正しい使い方──タダには理由があるで詳しく扱っています。

調停委員や裁判官に見せるなら、鑑定評価書

相手方や裁判所に提出し、第三者の判断を動かすことを目的とするなら、鑑定評価書を選んでください。前述のとおり、基準に則らない価格等調査が許されるのは、利用者の判断に大きな影響を与えない場合などに限られます。提出を予定している書面を、あえて基準に則らない形で作る理由がありません。

なお、鑑定評価書は裁判所の判断を拘束するものではありません。有力な証拠資料の一つとして扱われるにとどまります。裁判所の手続における証拠の扱いそのものは弁護士の先生の領分ですので、いつ何を出すかという提出の段取りは、依頼されている先生にご相談ください。

途中で切り替えると、結果的に割高になる

想定されるケースで考えます。築15年の分譲マンション1室について、夫が住み続け、妻に代償金(家をもらう側が、もらわない側へ支払って差を埋めるお金)を渡す形で協議している。夫側が提示した査定額は3,200万円、妻側が集めた査定額は3,900万円。開きは700万円で、価値を2分の1ずつ分けるなら代償金では350万円の差になります。

ここで価格等調査報告書(12万円)を取り、調査価格3,550万円という第三者の数字が出たとします。双方がこの水準で折り合えれば、費用は12万円で終わります。しかし折り合えず調停に進み、あらためて鑑定評価書(30万円)が必要になれば、合計42万円です。最初から鑑定評価書を選んでいれば30万円でした。

進め方費用の合計前提
価格等調査報告書のみ12万円協議で折り合えた場合
調査報告書のあと鑑定評価書42万円折り合えず調停へ進んだ場合
最初から鑑定評価書30万円調停を見込んでいる場合

すでに調停の申立てが済んでいる、相手方が弁護士を立てている、双方の主張が数百万円開いている。こうした状況なら、最初から鑑定評価書を選ぶほうが総額を抑えられます。費用の判断は、単価ではなく総額で見てください。

迷ったときに答えていただきたい3つの質問

この書面を誰かに提出する予定はあるか

提出先があるなら鑑定評価書です。自分と弁護士の先生の間で止まるなら、価格等調査報告書で足ります。最も効く質問がこれです。

双方の主張はどれだけ開いているか

財産分与では原則として不動産の価値を2分の1ずつ分けるため、評価額の差の半分が、実際にやり取りする金額の差になります。開きが200万円から300万円を超えていれば、費用をかけて根拠のある数字を用意する意味が出てきます。逆に開きが100万円程度なら、間を取って折り合うほうが合理的です。この損益分岐の考え方は20万円の鑑定費用は高いのか──費用対効果の考え方で詳しく整理しています。

期日までに間に合うか

価格等調査報告書は机上調査を中心に組み立てるため、短期間で作成できます。鑑定評価書は現地調査と役所調査を経るため、相応の期間が必要です。調停期日が迫っているなら、まず期日に間に合う形で目安を押さえ、次回期日に向けて鑑定評価書を用意するという段取りもあり得ます。当事務所では着手前に金額と納期を書面でお示ししますので、期日から逆算してご相談ください。

なお、いずれの成果物を選ぶ場合でも、譲渡所得税などの税務の取扱いは税理士にご確認ください。私たちがお示しするのは価格であって、税額ではありません。

まとめ

価格等調査報告書と鑑定評価書の違いは、費用の大小ではなく、不動産鑑定評価基準に則っているかどうかという一点にあります。そして、その一点が「誰に見せられる書面か」を決めています。

要点を振り返ります。

  • 鑑定評価書は不動産の鑑定評価に関する法律第3条第1項の業務、価格等調査報告書は同条第2項の業務であり、拠って立つ条文が異なる
  • 基準に則らない成果物には「鑑定評価書」の名称も「鑑定評価額」の用語も使えない。いわゆる「簡易鑑定」と呼ばれているものの多くは価格等調査に当たる
  • 基準に則らない価格等調査が許されるのは、内部使用にとどまる場合や利用者の判断に大きな影響を与えない場合などに限られる
  • 費用の目安は価格等調査報告書10万円から15万円、鑑定評価書20万円から60万円(税別)
  • 提出先があるなら鑑定評価書、自分の方針決定のためなら価格等調査報告書
  • 途中で切り替えると総額が上がる。調停を見込んでいるなら最初から鑑定評価書を選ぶほうが安く済む

これから協議を始める方、すでに調停が動いている方、依頼者に適した資料を選ぼうとされている弁護士の先生。いずれの立場でも、最初に決めるべきは金額ではなく、その書面を誰に向けて作るのかという一点です。ここさえ定まれば、選択肢は自然に絞られます。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。手続の状況と物件の内容をうかがったうえで、価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが適しているか、あるいは相手方資料のセカンドオピニオンで足りるかを含めてご案内します。お見積りは無料で、着手前に金額と納期を書面でお示しします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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