財産分与の税金は「渡す側」にかかる──離婚で家を分けるときの3つの税目と試算

離婚の財産分与で自宅を渡すと、税負担は「もらう側」ではなく「渡す側」に生じます。譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税の3つの税目を整理し、時価3,000万円の自宅を例に試算。離婚成立の前後という順序で税額が数百万円変わる理由と、税額の土台になる「時価」の考え方を解説します。

著者:吉田 健人·読了 約14
財産分与の税金は「渡す側」にかかる──離婚で家を分けるときの3つの税目と試算

財産分与の話し合いで自宅の扱いが決まると、多くの方がほっと一息つかれます。ところが、そのあとに「税金はどうなるのか」という問いが残ります。そして、この問いに対する直感はたいてい外れます。

家をもらう側に税金がかかりそうな気がする。財産をタダで受け取るのだから、贈与税を払うのではないか。そう考える方が大半です。しかし実際には逆で、税負担が重くなりやすいのは「渡す側」のほうです。しかも渡す側には現金が一円も入ってこないのに、税金だけが先に発生することがあります。

もうひとつ、順序の問題もあります。まったく同じ内容の財産分与でも、離婚届を出す前に名義を移したか、出したあとに移したかで、税額が数百万円単位で変わることがあります。この記事では、離婚で自宅を分けるときに登場する3つの税目を整理し、時価3,000万円の自宅を例に数字で確かめます。私たち鑑定士は税額を計算する立場ではありませんが、これらの税金がすべて「時価」という土台の上に乗っている以上、避けて通れないテーマです。個別の判断は必ず税理士にご確認ください。

誰にどの税金がかかるのか

3つの税目と、負担する人

離婚に伴って不動産の名義が動くとき、関係してくる税金は次のとおりです。

税目渡す側もらう側
譲渡所得税・住民税かかることがあるかからない
贈与税かからない原則かからない
登録免許税かからないかかる
不動産取得税かからない分与の性質による

もらう側の負担は登録免許税と不動産取得税に限られ、金額としては数十万円規模にとどまることが一般的です。これに対し渡す側の譲渡所得税は、物件の値上がり幅次第で数百万円に達します。

もらう側に贈与税がかからない理由

財産分与でもらった財産に贈与税がかからないのは、それが贈与ではないからです。国税庁は、財産分与を「夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたもの」と説明しています(国税庁タックスアンサーNo.4414)。もともと二人で築いた財産を分けているのであって、一方が他方に恵んでいるわけではない、という整理です。

例外は2つだけ

ただし例外があります。ひとつは、分与された財産の額が、婚姻中に協力して得た財産の額やその他の事情を考慮してもなお多すぎる場合です。この場合、多すぎる部分に贈与税がかかります。もうひとつは、離婚が贈与税や相続税を免れる目的で行われたと認められる場合で、このときは受け取った財産すべてが課税対象になります。

前者の「多すぎるかどうか」は、分けた財産の価値がいくらだったかを抜きには判断できません。ここで不動産の時価が問題になります。

渡す側にかかる譲渡所得税

財産分与は「時価で売った」とみなされる

渡す側に譲渡所得税がかかるのは、税法上、財産分与による不動産の移転が「譲渡」として扱われるからです。国税庁も「分与した人に譲渡所得の課税が行われる」と明記しています(同No.3114)。このとき収入金額となるのは、実際に受け取った金銭ではなく、分与した時の時価です。

一円も受け取っていないのに、時価で売ったものとして計算される。ここが財産分与の税務でもっとも見落とされやすい点です。納税資金を別に用意しておかないと、離婚後に手元資金が尽きかねません。

税率は所有期間で倍近く変わる

譲渡所得は「収入金額(時価)− 取得費 − 譲渡費用」で計算し、そこに税率をかけます。税率は、譲渡した年の1月1日時点での所有期間によって次のように分かれます(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)。

所有期間(譲渡年の1月1日時点)税率譲渡益1,500万円のときの税額
5年以下(短期譲渡所得)39.63%約594万円
5年超(長期譲渡所得)20.315%約304万円
10年超・軽減税率適用部分14.21%約213万円

10年超の軽減税率は、居住用財産を売った場合に課税譲渡所得6,000万円以下の部分へ適用されるものです(租税特別措置法第31条の3)。同じ譲渡益でも、5年以下と10年超では税額が2倍以上違います。

なお取得費は、購入代金から建物の減価償却分を差し引いた金額です。購入時の契約書が見つからず取得費が不明な場合、収入金額の5%を取得費とみなす概算取得費で計算することになります。時価3,000万円なら取得費150万円、譲渡益2,850万円という扱いです。長く住んだ家ほど契約書は失われがちです。離婚の準備段階で、購入時の売買契約書を探しておくことを強くおすすめします

3,000万円特別控除は「離婚後」でないと使えない

居住用財産を売ったときには、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特別控除があります(同No.3302)。これが使えれば、譲渡益が3,000万円以内の多くのケースで税額はゼロになります。

ところがこの特例には、「特別の関係がある人への譲渡には使えない」という要件があります。特別の関係がある人には配偶者が含まれます。つまり、婚姻中に配偶者へ渡すと控除は使えず、離婚が成立してから元配偶者へ渡せば使えるということです。

もうひとつの期限にも注意が必要です。すでに住まなくなっている家屋については、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡する必要があります。別居が長引いて協議がまとまらないうちにこの期限を過ぎると、控除は使えなくなります。別居から時間が経っている方は、この日付を必ず確認してください。

もらう側にかかる登録免許税と不動産取得税

登録免許税は固定資産税評価額の2%

名義を移す所有権移転登記には登録免許税がかかります。財産分与は「売買」でも「相続」でもなく、その他の原因として扱われ、税率は土地・建物とも固定資産税評価額の1,000分の20、つまり2%です。相続の0.4%と比べると5倍で、ここは軽減の余地がありません。

課税標準は時価ではなく固定資産税評価額である点は救いです。土地は時価の7割程度、建物は再建築費をもとにした評価額になるため、時価3,000万円の自宅でも評価額の合計は1,800万円前後にとどまることがあります。その場合の登録免許税は36万円です。これに司法書士報酬が加わります。手続きの時期については財産分与で家をもらったら、名義変更はいつ・どうやるのかもあわせてご覧ください。

不動産取得税は分与の性質で結論が変わる

不動産取得税は都道府県税で、税率は土地・住宅が3%(令和9年3月31日までの取得。本則は4%)、住宅以外の家屋が4%です。宅地評価された土地については、同じ期限まで課税標準が価格の2分の1になる特例があります。

財産分与での扱いは、その分与がどういう性質のものかで変わります。夫婦が協力して築いた財産を清算する清算的財産分与であれば、実質的には自分の持ち分を取り戻す行為なので、課税されない取扱いが一般的です。これに対し、慰謝料の代わりに不動産を渡す慰謝料的財産分与や、離婚後の生活保障のための扶養的財産分与は、新たな財産の取得とみられ、課税される可能性があります。

なお、婚姻前から一方が所有していた不動産や、相続・贈与で取得した不動産(いわゆる特有財産)を分与の対象にした場合は、清算の実質がないため課税される扱いになるのが一般的です。

ここも「協議書にどう書いたか」が効いてくる場面です。清算・慰謝料・扶養のどの趣旨で分けたのかが読み取れない協議書は、後から余計な課税リスクを呼び込みます。文言の設計は弁護士にご相談ください。

時価3,000万円の自宅で試算する

以下は想定されるケースとして数字を置いたものです。前提は、時価3,000万円の自宅(土地・建物一体)、取得費1,500万円、所有期間15年、夫の単独名義、夫婦とも婚姻期間中は居住していた、というものです。

ケース1:離婚成立後に夫が妻へ分与する

譲渡益は3,000万円 − 1,500万円 = 1,500万円です。夫は元配偶者への譲渡となるため3,000万円特別控除が使えます。1,500万円は控除額の範囲内なので、課税譲渡所得はゼロ、譲渡所得税・住民税もゼロです。

妻の側は、登録免許税が約36万円。不動産取得税は清算的財産分与であれば課税されない扱いとなり、慰謝料的な要素が含まれる場合は土地・家屋の評価額に応じた負担が生じます。全体として、数十万円規模で収まる計算です。

ケース2:売却して現金を分ける

3,000万円で第三者に売却し、仲介手数料等の譲渡費用を約105万円とすると、譲渡益は1,395万円。夫は3,000万円特別控除を使えて税額はゼロ。手取り約2,895万円からローン残債を返し、残りを分けることになります。

ケース1との決定的な違いは、手元に現金が入ることです。仮に譲渡益が3,000万円を超えて納税が必要になっても、売却代金から払えます。財産分与で渡す場合は、現金が入らないまま納税義務だけが生じるため、譲渡益が大きい物件ほど売却を選ぶ合理性が高まります。

ケース3:離婚届を出す前に名義を移してしまった

同じ3,000万円の自宅を、離婚成立前に夫から妻へ移した場合はどうなるか。婚姻中の夫婦間の財産移転は財産分与ではなく贈与と扱われます。

婚姻期間が20年未満であれば、基礎控除110万円を引いた2,890万円が課税価格となり、一般税率で計算すると贈与税は約1,195万円。婚姻期間20年以上で贈与税の配偶者控除(2,000万円)が使える場合でも、890万円が課税価格として残り、贈与税は約231万円です。さらに夫の側では、配偶者への譲渡となるため3,000万円特別控除が使えず、譲渡所得税も別途生じます。

離婚届を出す前に登記を動かすかどうか。それだけで結果がこれほど変わります。順序を間違えないでください。

税額の土台は「時価」──ここが評価の問題になる

収入金額は時価であって、査定額ではない

ここまで見てきたとおり、譲渡所得税の収入金額は分与時の時価です。贈与税がかかる「分与額が多すぎる場合」の判定も、時価がわからなければできません。つまり、この記事に出てきた税額のすべては、時価がいくらかという一点に依存しています。

ところが実務では、その時価の根拠が不動産会社の無料査定書1通ということが少なくありません。査定額は売却の見込み価格であり、業者ごとに幅が出ます。「時価」とは何か──1つの不動産に4つの価格がある理由で整理したとおり、ひとつの不動産にはいくつもの価格が併存しています。

金額が大きい事案ほど、根拠を残す意味がある

譲渡益が3,000万円特別控除の枠に収まる事案であれば、時価の精度が税額を左右する場面は限られます。一方で、値上がりが大きい都心の物件や、婚姻期間中に相続した不動産が混ざる事案、分与額の妥当性そのものが争点になる事案では、時価をどう認定したかが後から問われます。

私たち鑑定士にできるのは、価格時点を明示したうえで、その日の時価がいくらであるかを根拠のある手順で示すことです。当事務所では、話し合いの土台をつくる価格等調査報告書を10万円〜15万円、調停・訴訟や税務対応まで見据えた鑑定評価書を20万円〜60万円(いずれも税別)で承っています。相手方資料の検証だけなら5万円〜のセカンドオピニオンもご利用いただけます。費用全体の考え方は離婚にかかるお金の全体設計にまとめました。

まとめ

財産分与の税金は「もらう側」ではなく「渡す側」に重く出ます。そして、離婚成立の前後という順序ひとつで税額が数百万円変わります。要点を振り返ります。

  • 渡す側には譲渡所得税がかかり得る。現金が入らないのに、分与時の時価で売ったものとして計算される
  • もらう側は贈与税が原則かからない。負担は登録免許税(評価額の2%)と、分与の性質によっては不動産取得税
  • 居住用財産の3,000万円特別控除は、離婚成立後の元配偶者への分与でなければ使えない。住まなくなってから3年の期限にも注意
  • 離婚届を出す前に名義を移すと贈与扱いとなり、税負担が跳ね上がる
  • 購入時の売買契約書が見つからないと概算取得費5%となり、譲渡益が大きく出る
  • 税額のすべては「時価」の上に乗っている。金額が大きい事案ほど根拠を残す意味がある

自宅を渡す側になる方、受け取る側になる方、そして依頼者の財産分与を設計される弁護士の先生にとって、税金は分け方そのものを左右する要素です。分け方を決めてから税額を知って青ざめるのではなく、税額の見当をつけたうえで分け方を選ぶ順序をおすすめします。なお、この記事は制度の一般的な整理であり、実際の税額や適用の可否は必ず税理士にご確認ください。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。「この物件で評価を取る意味があるか」の見立てからお答えします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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