評価の実務

賃貸に出している自宅は、財産分与で「収益物件の値段」になってしまうのか

転勤や別居で自宅を賃貸に出したまま離婚を迎えると、財産分与の評価で「収益価格」と「実需価格」が数千万円単位で食い違うことがあります。評価の分かれ目と、相手方の鑑定評価書が出てきたときのチェックポイントを解説します。

著者:吉田 健人·読了 約5
賃貸に出している自宅は、財産分与で「収益物件の値段」になってしまうのか

転勤で自宅を貸したまま戻らなかった。別居を機に賃貸に出した。そうした経緯で「賃貸中の自宅マンション」を抱えたまま離婚を迎えるケースは、珍しくありません。

このとき財産分与の評価で起こりがちなのが、「収益物件としての値段」と「自宅としての値段」の衝突です。同じ部屋なのに、どちらの物差しで測るかで数千万円単位の差が生じることがあります。

収益価格と実需価格はなぜ乖離するのか

賃貸中の区分マンションを収益物件として評価する場合、基本は家賃収入からの逆算です。仮に家賃が月20万円(年240万円)で、投資家の期待利回りが6%なら、収益価格は約4,000万円になります。

一方、同じ部屋を「自分が住む家」として買う人は、家賃から逆算しません。立地・広さ・築年・住み心地に対して値段がつきます。実需の相場では6,000万円で取引されるような部屋が、古い家賃をもとにした収益計算では4,000万円になる——このようなことが実際に起こります。

乖離が大きくなりやすいのは、次のような場合です。

  • 家賃が古い:5〜6年前に決めた家賃のままで、現在の相場より大幅に安い
  • 実需人気の高いエリア・間取り:ファミリー向けの広い部屋ほど、収益計算と実需相場の差が開きやすい
  • 市況の上昇:売買価格が上がる局面では、家賃の上昇が遅れて追いかける

評価の分かれ目は「契約の中身」

では、賃貸中ならどんな場合でも収益価格になってしまうのかというと、そうではありません。鑑定評価では「その不動産を最も有効に使う方法は何か(最有効使用)」を判定します。その判定を左右するのが、賃貸借契約の中身です。

特に重要なのが、普通借家契約か、定期借家契約かです。

普通借家契約は借主の保護が強く、貸主の都合で簡単には終了できません。賃貸が長期にわたり続く前提で考える必要があります。一方、定期借家契約は期間満了で確定的に終了します。残存期間が短ければ、「あと1〜2年で自用に戻せる不動産」として、実需価値を織り込んだ評価が可能になります。

契約書1枚で評価の前提が変わる。財産分与で賃貸中の不動産が争点になったら、まず賃貸借契約書を確認することをおすすめします。

相手方の鑑定評価書が出てきたときのチェックポイント

調停や裁判で、相手方から鑑定評価書や査定書が提出されることがあります。専門的な書面を前に「プロが作ったものだから」と受け入れる前に、最低限次の3点を確認してください。

① 価格時点は古くないか。鑑定評価書の金額は「価格時点」という特定の日付の価格です。作成から時間が経っていれば、市況の変動分だけ現在とずれています。財産分与の基準時と価格時点が大きく離れていないかを見てください。

② 採用された家賃は妥当か。収益価格の計算に使われた家賃が、何年も前に決まった現行家賃のままか、現在の相場水準か。この違いだけで収益価格は大きく動きます。

③ 類型の選択は適切か。賃貸中(貸家及びその敷地)として評価しているか、契約の内容・残存期間をどう扱っているか。定期借家であることが考慮されていない評価は、検証の余地があります。

これらは、契約書・登記事項証明書・鑑定評価書があれば第三者が検証できます。当事務所では、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)を承っています。検証の結果、相手方の評価に不合理な点が見当たらなければ、その旨を正直にお伝えします。

まとめ

  • 賃貸中の自宅は、収益価格と実需価格が数千万円単位で乖離し得る
  • 分かれ目は賃貸借契約の中身。特に定期借家か普通借家かは決定的
  • 相手方の鑑定評価書は「価格時点・採用家賃・類型」の3点から検証できる

賃貸中の不動産の財産分与でお悩みの方は、契約書と納税通知書をお手元にご相談ください。評価を取る意味がある事案かどうかの見立てから、無料でお伝えします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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