借地権付きの家は財産分与でいくらになるのか──借地権割合を掛けるだけでは決まらない
借地の家は建物だけを分ければよい、という理解は正しくありません。土地を使い続ける権利そのものに値段がつきます。路線価図の借地権割合を掛けた金額が実勢と食い違う理由、地代の水準が効く仕組み、地主に払う譲渡承諾料までを、想定されるケースの数字で整理します。

「うちは借地なんです。土地は地主さんのものですから、財産分与で分けるのは建物だけですよね」。離婚のご相談で、借地の上に自宅を建てている方からこう言われることがあります。
結論から申し上げると、違います。借地権それ自体が財産です。建物の下に敷かれた「土地を使い続ける権利」には値段がつき、地域によっては更地価格の6割、7割という金額になります。建物だけを見て話を進めると、数百万円から一千万円単位の財産が、分与の対象から丸ごと抜け落ちます。
やっかいなのは、その金額の出し方が一つに決まっていないことです。相続税の路線価図には「借地権割合」という数字が載っていて、これを掛ければ答えが出るように見えます。ところが、実際に売ったときの金額とは一致しません。この記事では、借地権の価値がどう決まるのか、地主の承諾という手続きが金額にどう響くのかを、想定されるケースの数字で追いかけます。なお、借地契約の効力や分与方法の当否といった法的判断は弁護士にご相談ください。
借地権とは、何を持っている状態か
土地は地主、建物は自分
借地借家法(平成3年法律第90号)第2条第1号は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。土地の所有権は地主(借地権設定者)に残したまま、建物を建てて土地を使い続ける権利だけを借地人が持つ、という構造です。
登記簿を見ると、土地の所有者欄には地主の名前が入り、建物の所有者欄に自分の名前が入ります。この見た目から「分けられるのは建物だけ」と受け取ってしまう方が多いのですが、名義は権利の全部ではありません。借地人が持っている「使い続ける権利」は、市場で現に売買されている財産です。
借地権は財産分与の対象になり得る
婚姻中に取得した借地権は、名義が夫婦の一方であっても、夫婦が協力して形成した財産として財産分与の対象になり得ます。2026年4月1日に施行された改正民法第768条第3項も、当事者双方が婚姻中に「取得し、又は維持した財産」を考慮の対象として挙げています。毎月の地代を家計から払い続けてきた事実は、この「維持」に触れる話です。
対象になるかどうかの判断そのものは法律問題ですので、個別の契約内容とあわせて弁護士にご確認ください。押さえていただきたいのは、「土地が他人名義だから対象外」という短絡だけは避ける、ということです。
旧法か定期借地権かで、価値がまるで違う
同じ「借地」という言葉でも、中身は大きく分かれます。
平成4年8月1日より前に設定された借地権には旧借地法(大正10年法律第49号)が適用され、正当の事由がなければ地主は更新を拒めません。事実上、半永久的に使い続けられる権利です。
同日以後に設定されたものには借地借家法が適用されます。普通借地権であれば更新がありますが、同法第22条の一般定期借地権は期間50年以上・更新なしで、期間が来れば建物を取り壊して土地を返します。
更新できる権利と、返す日が決まっている権利。値段が違うのは当然です。まず契約書を開いて、自分の借地がどちらなのかを確定してください。
「路線価×借地権割合」の数字が実勢と食い違う理由
借地権割合は相続税のための物差し
国税庁が公表する路線価図には、路線価とあわせてA〜Gの記号が振られています。Aが90%、Bが80%、以下10%刻みでGの30%まで。これが借地権割合で、財産評価基本通達27は、自用地としての価額(その土地を借地権などの制約なしに自分で使えるものとみた場合の価額)にこの割合を掛けて借地権の相続税評価額を求めると定めています。
問題は、この数字が相続税・贈与税の課税のために作られたものだという点にあります。課税の公平と事務の効率のために地域単位の一律の物差しを当てているのであって、その土地の借地権が市場でいくらで売れるかを表しているわけではありません。同じ不動産に目的の違う複数の価格が併存する仕組みは「時価」とは何か──1つの不動産に4つの価格がある理由で整理しました。
鑑定でみる借地権の価格は「借地人に帰属する経済的利益」
不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、借地権の価格を、借地権に基づいて土地を使用収益することにより借地人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものとしています。一時金の授受に基づく利益も、ここに含まれます。
この定義は、割合を掛けるという発想とは出発点が違います。見ているのは「この借地人が、この契約のもとで、どれだけの利益を得ているか」です。
地代が安いほど、借地権は厚くなる
具体的に効いてくるのが地代です。周辺の水準からみて適正な地代が年60万円のところ、契約上は年24万円しか払っていないとします。差額の36万円は、毎年借地人の手元に残る利益です。これが契約の残り期間にわたって続くのですから、その現在価値の分だけ借地権は厚くなります。
逆に、地代が相場並み、あるいは相場を上回っていれば、借地人に残る利益は薄く、借地権の値段も薄くなります。路線価図の借地権割合は、この地代の水準をまったく見ていません。同じ「D=60%」と書かれた地域にある2つの借地でも、実際の価値は違うのです。
数字で確かめる──想定されるケース
以下は想定されるケースとして前提を置いたもので、実在の事案ではありません。
前提を置く
- 夫名義の借地権付き一戸建て。東京都内の住宅地にあり、旧法借地権で更新を重ねている
- 土地を更地とみた場合の価格は4,000万円。路線価図の借地権割合は60%(記号D)
- 地代は月額3万円、年額36万円。周辺の適正な地代はこれよりやや高い水準
- 建物は築22年の木造。別居時点の建物の価値は400万円
- 住宅ローンは完済済み
出し方が3つあり、結論が変わる
| 出し方 | 考え方 | 金額 |
|---|---|---|
| 路線価の借地権割合 | 4,000万円 × 60% | 2,400万円 |
| 承諾料を見込む | 2,400万円 − 譲渡承諾料240万円 | 2,160万円 |
| 市場での売却可能額 | 買主が限られる分を減価 | 1,800万円程度 |
借地権は、買う側からすると地主との関係ごと引き継ぐ取引です。住宅ローンを付けにくく、譲渡にも将来の建替えにも地主の承諾が要る。こうした事情から買主の数は所有権の物件より確実に少なくなり、その分が価格に効きます。
建物400万円を足すと、分与の土台は2,800万円と2,200万円。2分の1ずつ分けるなら取り分は1,400万円と1,100万円で、差は300万円です。断言しますが、どの出し方を前提にした数字なのかを確かめないまま金額だけを比べても、話は噛み合いません。
借地権割合が変われば金額も動く
| 借地権割合(記号) | 借地権の価格 | 2分の1相当 |
|---|---|---|
| 40%(F) | 1,600万円 | 800万円 |
| 60%(D) | 2,400万円 | 1,200万円 |
| 80%(B) | 3,200万円 | 1,600万円 |
記号が2段違うだけで、取り分は数百万円動きます。まずは国税庁のサイトで、自分の土地に振られた記号を確認するところから始めてください。
定期借地権なら残存期間が効く
一般定期借地権で、50年の期間のうち残りが12年という状態を考えます。12年後には建物を取り壊して更地で返す約束ですから、使える期間は12年分しかありません。加えて、取壊し費用の負担も待っています。
このとき「更地価格×60%」を当てはめれば、実態から大きく外れた金額が出ます。定期借地権の価値は、残存期間が短くなるにつれて逓減していく性質のものだからです。契約書の期間と、更新・建物買取請求の有無を必ず確認してください。
地主の承諾という、もう一つのハードル
建物を渡すなら地主の承諾が要る
財産分与で「借地権付きの家を妻に渡す」と決めても、それだけでは完結しません。建物を譲渡すれば借地権も一緒に移りますが、賃借権の譲渡には地主の承諾が必要です(民法第612条第1項)。
承諾を得ないまま譲渡すると、契約を解除されるおそれがあります。合意書に「自宅は妻に譲渡する」と書いただけで安心してしまうと、後になって地主との関係が問題になります。承諾をどう取るかまで、合意書を作る段階で決めておくべき論点です。
承諾が得られないときは裁判所の許可を求められる
地主が承諾しない場合、借地借家法第19条第1項により、借地人は裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を申し立てることができます。譲渡によって地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないときに、裁判所が許可を与える制度で、借地非訟と呼ばれます。
同項は、裁判所が当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、許可を財産上の給付にかからしめることができるとも定めています。いくら払うのかも、この手続きの中で決まります。
譲渡承諾料は借地権価格の10%が目安
実務では、譲渡承諾料(名義書換料と呼ばれることもあります)は借地権価格の10%程度が目安とされています。先の想定ケースなら240万円です。裁判所の手続きでも、鑑定委員会の意見を聴いたうえで金額が定められます。
無視できる金額ではありませんから、誰が負担するのかを分与の話し合いに入れておく必要があります。建替えを予定しているなら、建替承諾料が別に発生します。
なお、地主が親族──たとえば夫の親で、地代を払わずに使わせてもらっているような場合は、そもそも借地権ではなく使用貸借(無償で借りる契約)として扱われることがあります。この違いは親の土地に建てた家の離婚──土地は対象外、では建物は?で整理しました。
資料を揃え、評価の土台をつくる
先に確保しておく資料
| 資料 | 何がわかるか | 入手先 |
|---|---|---|
| 土地賃貸借契約書 | 期間・地代・特約・旧法か定期借地権か | 手元の書類 |
| 地代の領収書・口座履歴 | 実際の地代の水準と支払者 | 手元の書類・金融機関 |
| 建物の登記事項証明書 | 建物の名義・構造・築年 | 法務局 |
| 路線価図 | 路線価と借地権割合の記号 | 国税庁のウェブサイト |
契約書が見つからないことは珍しくありません。数十年前に親の代で結んだまま、更新のたびの覚書だけが残っているケースもあります。その場合は、地代の支払履歴と建物の登記から契約の内容を推定していく作業になり、時間がかかります。早めに着手してください。
建物は別に数える
借地の場合、価値は借地権と建物に分かれています。建物が古いから全体も安い、とは限りません。都心の借地なら、建物がほとんど価値を持たなくても、借地権だけで二千万円を超えることがあります。
逆に、建物に大きな修繕が必要なら、その費用は価格から差し引かれます。借地権と建物、両方を別々に数える姿勢が要ります。
どの評価を使うか
話し合いの段階であれば、まずは根拠を書面にした価格等調査報告書で土台をつくるのが現実的です。相手が路線価の割合だけで主張してきている場合、地代の水準や契約の種類を踏まえた数字を出すだけで、議論の前提が変わります。
調停・訴訟で正面から争うのであれば、鑑定評価書が機能します。当事務所では、価格等調査報告書を10万円〜15万円、鑑定評価書を20万円〜60万円(いずれも税別)で承っています。相手方が出してきた査定書の妥当性を検証するだけであれば、5万円〜のセカンドオピニオンもご利用いただけます。両者の使い分けは価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのか──費用と「使える場面」で選ぶに書きました。譲渡承諾料の負担や持分の移転に伴う税金の取扱いは、必ず税理士にご確認ください。
まとめ
借地の家でも、分ける財産は建物だけではありません。土地を使い続ける権利そのものに値段がつき、その金額は路線価図の割合を掛けただけでは決まりません。要点を振り返ります。
- 借地権は借地借家法第2条第1号にいう「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」であり、それ自体が財産分与の対象になり得る
- 路線価図のA〜G(90%〜30%)は相続税・贈与税のための割合で、市場で成立する金額とは一致しない
- 鑑定でみる借地権の価格は借地人に帰属する経済的利益であり、地代が相場より安いほど厚くなる
- 想定ケースでは、割合による2,400万円と市場での1,800万円とで、取り分に300万円の差が出た
- 旧法借地権・普通借地権・定期借地権では価値が大きく異なる。定期借地権は残存期間が短くなるほど逓減する
- 借地権の移転には地主の承諾が要り(民法第612条第1項)、譲渡承諾料は借地権価格の10%程度が目安。承諾が得られなければ借地借家法第19条第1項の許可を申し立てる道がある
借地の自宅にお住まいの方、相手方から「土地は地主のものだから建物だけだ」と言われている方、そして借地案件を抱えられた弁護士の先生にとって、最初の一歩は契約書と路線価図を並べることです。権利の種類が分かれば、測り方が決まります。
借地権付きの自宅の評価でお悩みの方、依頼者の借地案件を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。契約の種類と地代の水準から、どの評価が必要になるのかという見立てをお答えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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