評価の実務

地方の家は離婚でどう評価するのか──「近所で売れていない」ときの鑑定の手法

地方の家を離婚で評価したいのに「近所で取引がなく査定が出ない」。そんなとき鑑定士は同一需給圏まで事例を広げ、原価法や地価調査で価格を確かめます。事例が少ない地域で評価がぶれる理由と、分与額への影響を想定されるケースで解説します。

著者:吉田 健人·読了 約14分
地方の家は離婚でどう評価するのか──「近所で売れていない」ときの鑑定の手法

地方や郊外にある家を、離婚でどう評価すればよいのか。不動産会社に査定を頼んだら「このあたりは取引がほとんどないので、はっきりした数字は出せません」と言われた。ようやく出てきた査定書には、土地の値段しか書かれていなかった。そんな経験をされた方もいらっしゃるでしょう。

相手からは「どうせ田舎の家なんて売れないのだから、ほとんど価値はない」と言われ、反論の材料が見つからない。逆に、家を出ていく側からすれば、建てたときに何千万円もかけた家が「ゼロに近い」と言われても納得できません。

先に結論を申し上げます。近所で取引がなくても、家の評価はできます。私たち鑑定士は、事例を探す範囲を「同じ需要が及ぶ圏域」まで広げ、地域の違いを補正して比べます。あわせて、建物を建て直す費用から考える原価法や、公的な地価の指標を組み合わせ、複数の角度から価格を詰めていきます。この記事では、取引事例が少ない地域で評価がぶれる理由と、その中で価格を成り立たせる実務を整理します。

地方の家の評価が難しい理由

取引事例比較法は「比べる相手」がいて初めて機能します

住宅の評価で中心になるのは、取引事例比較法(近くで実際に売買された似た不動産の価格をもとに、条件の違いを補正して対象の価格を求める手法)です。不動産会社の査定も、基本的にはこの考え方に立っています。

都市部であれば、同じ町内や同じ駅圏で、毎年いくつもの取引が見つかります。ところが人口の少ない地域では、同じ集落で過去5年に売買が1件か2件ということも珍しくありません。比べる相手がいなければ、この手法はうまく働きません。

数少ない取引が「普通の取引」とは限りません

取引の件数が少ないと、もう一つの問題が出てきます。その少ない取引が、親族間の売買、隣地の所有者による買い増し、相続人が急いで手放した売却など、特殊な事情を抱えていることが多いのです。

1件しかない取引が相場より大きく安い価格だったとしても、それが地域の標準的な価格だとは言えません。特殊な事情を含む取引を、そのまま「この地域の相場」として使えば、評価は大きくゆがみます。

「査定が出ない」は「価値がない」という意味ではありません

不動産会社が数字を出しにくいのは、査定が仲介のための営業活動であり、売れる見込みの価格を示すことが目的だからです。取引が少ない地域で「いくらで売れるか」を約束しにくいのは当然で、土地だけの価格で慎重に出す、あるいは査定そのものを控えるという対応になりがちです。

しかし財産分与で必要なのは、その家が夫婦の財産としていくらの価値を持つかという数字です。査定が出ないことと、価値がないことは別の話です。無料査定の性質については離婚時の「無料査定」の正しい使い方──タダには理由があるでも整理しています。

取引事例が少ないとき、鑑定士は評価をどう組み立てるか

事例を探す範囲を「同一需給圏」まで広げます

不動産鑑定評価基準は、取引事例を原則として近隣地域(対象の家がある、用途や環境がまとまった地域)または同一需給圏内の類似地域から選ぶとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域から選ぶことも認めています(総論第7章)。

同一需給圏とは、対象の家と代わりになり得る不動産があり、互いの価格に影響を及ぼし合う圏域のことです。地方の住宅であれば、隣の町の似たような集落、同じ市内で通勤や買い物の条件が近い地区などが候補になります。同じ集落に事例がなくても、この圏域まで視野を広げれば、比べる相手は見つかることが多いのです。

広げた分は「地域要因の補正」で埋めます

範囲を広げれば、当然ながら地域の条件は変わります。駅や幹線道路までの距離、学校や病院の近さ、上下水道の整備状況、災害リスク、人口の動きなどです。

鑑定評価では、事例の地域と対象の地域をこうした項目ごとに比べ、格差を数字で補正します(地域要因の比較)。さらに、土地の広さや形、接している道路の幅、建物の状態といった個別の違いも補正します(個別的要因の比較)。事例を広い範囲から集めるほど、この補正の根拠を丁寧に説明できるかどうかが、評価の説得力を決めます。

公的な地価の指標を手がかりにします

地方でも使える公的な指標があります。国土交通省の地価公示と、都道府県が毎年7月1日時点で調べる都道府県地価調査です。

地価公示法第8条は、公示区域内の土地の正常な価格を求めるときは公示価格を規準としなければならないと定めています。公示区域の外にある地域や、近くに地価公示の標準地がない地域では、都道府県地価調査の基準地が重要な手がかりになります。これらの地点の価格と推移は、事例が少ない地域で土地の水準を確かめる物差しとして役立ちます。

原価法と収益還元法で、別の角度から確かめます

取引事例だけに頼れないとき、他の手法の重みが増します。原価法(いま同じ建物を建てた場合の費用から、経年による価値の減少を差し引いて求める手法)は、建物の価値を取引の多い少ないに左右されずに把握できます。

周辺に戸建ての賃貸需要があれば、収益還元法(貸した場合に得られる家賃から価格を求める手法)で確かめることもあります。不動産鑑定評価基準は、複数の手法を適用して求めた価格(試算価格)を突き合わせ、それぞれの説得力を比べて最終的な価格を決めるよう求めています(総論第8章「試算価格の調整」)。一つの手法の数字をそのまま使うのではなく、手法同士の開きの理由を検討することが、事例の少ない地域では特に重要です。

田舎の不動産で「高い数字を選べばよい」わけではない理由

原価法の価格は、需要の弱い地域では高く出やすい

ここは、家をもらう側にもお金を受け取る側にも知っておいていただきたい点です。建物を建て直す費用から考える原価法の価格(積算価格)は、需要の弱い地域では、実際に売れる価格よりも高く出やすい傾向があります。

建築費は都市でも地方でも大きくは変わりません。一方、住宅を買いたい人の数は地域によって大きく違います。建てるのに2,000万円かかった家が、2,000万円で売れるとは限らないのです。私たち鑑定士は、積算価格と、取引事例から求めた価格(比準価格)の開きがどこから生じているかを検討し、市場で受け入れられる水準に調整します。

固定資産税評価額は「目安の一つ」にとどまります

取引事例がないのなら、固定資産税評価額で分ければよいのではないか。そう考える方もいます。土地の固定資産税評価額は、地価公示価格等の7割程度を目安に定められています。相続税の世界でも、路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価する倍率方式が使われます。

ただし、固定資産税評価額は3年に一度の評価替えで決まる課税のための価格です。個別の家の状態や、直近の地域の需要の変化は反映しきれません。地域によっては、実際の取引価格が固定資産税評価額を下回ることもあります。当事者同士が合意するなら固定資産税評価額を基準に分けることもありますが、合意ができないときに「正しい時価」として押し通せる数字ではありません。

評価の開きは、分与額の開きになります

財産分与を2分の1ずつで行う場合、家の評価額が100万円変われば、代償金などの分与額は50万円動きます。事例の少ない地域ほど、査定書の間で数字が大きく開きやすく、その開きがそのまま争いの種になります。数字がぶれやすいからこそ、どの事例をどう補正したのか、なぜその手法を重く見たのかを説明できる評価が必要になるのです。

想定されるケース──取引の少ない集落の戸建て

以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。

前提

首都圏の外縁部にある集落の木造2階建て。土地は400平方メートル、建物は延床面積110平方メートルで築18年。夫婦の共有名義で、住宅ローンは完済しています。妻が子どもと住み続け、夫に代償金を支払う方向で協議しています。

同じ集落での売買は、過去5年で2件。1件は隣地の所有者による買い増し、もう1件は親族間の売買で、どちらも標準的な取引とは言えません。不動産会社からは「土地値として800万円程度」という口頭の説明を受けただけです。

評価の組み立て

鑑定士は、隣の町の同じような集落と、同じ市内で生活条件の近い地区から、6件の取引事例を集めます。駅までの距離や道路の状態などの地域要因、土地の広さや建物の状態などの個別的要因を補正し、土地建物一体の比準価格を1,500万円と求めたとします。

原価法では、土地を基準地の価格などから1平方メートルあたり2.5万円として1,000万円、建物は再調達原価(同じ建物を新築する費用)1,980万円に経済的残存耐用年数の割合などを反映して1,000万円とし、積算価格は2,000万円になったとします。

積算価格は比準価格を500万円上回ります。この開きは、需要の弱い地域で建物の費用が価格に反映されにくいことによるものと判断し、比準価格を重視して最終的な評価額を1,600万円に決めた、という流れです。

数字の違いが分与額に与える影響

根拠評価額夫への代償金(2分の1)
不動産会社の口頭説明(土地値)800万円400万円
鑑定評価(試算価格を調整)1,600万円800万円
積算価格をそのまま採用した場合2,000万円1,000万円

同じ家でも、どの数字を使うかで代償金は400万円から1,000万円まで動きます。土地値だけの説明は住んでいない夫に不利に働き、積算価格をそのまま使えば住み続ける妻に過大な負担を求めることになります。どちらかに寄った数字ではなく、根拠を説明できる数字を土台にすることが、協議をまとめる近道です。なお、分与の割合や代償金の支払方法は法律判断を含みます。具体的な進め方は弁護士にご確認ください。

地方の家の評価を依頼する前に揃えたい資料

家そのものの資料

登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、建築時の図面や確認済証、リフォームや修繕の記録です。建物の状態を示す資料が揃っているほど、原価法による評価の根拠が厚くなります。建物の価値の考え方は築25年の戸建て、建物の価値は本当にゼロなのか──「木造22年」の正体で詳しく扱っています。

地域の取引を知るための資料

国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、アンケート調査にもとづく不動産の取引価格情報を、地域を指定して調べられます。近所の売出物件のチラシや、地元の不動産会社から聞いた話も、鑑定士にとっては地域の需要をつかむ手がかりになります。

費用と成果物の選び方

評価額が大きくない家ほど、費用とのバランスが気になるところです。当事務所の費用の目安は、戸建住宅の鑑定評価書が30万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方の査定書などの検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。一都三県以外の物件は、交通費・宿泊費を実費で加算します。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

話し合いの材料として目安が欲しいなら価格等調査報告書、調停や訴訟に提出する前提なら鑑定評価書が適しています。対象の家から離れて暮らしている場合の進め方は遠方にある持ち家の財産分与──現地に行けなくても評価はできるのかもあわせてご覧ください。

まとめ

取引事例が少ない地方の家でも、評価はできます。事例を探す範囲を同一需給圏まで広げて地域の違いを補正し、原価法や公的な地価の指標で別の角度から確かめることで、根拠を説明できる価格にたどり着けます。

要点を振り返ります。

  • 取引事例比較法は比べる相手が必要で、事例が少ない地域では単独では機能しにくい
  • 数少ない取引は特殊な事情を含むことが多く、そのまま相場として使うと評価がゆがむ
  • 不動産鑑定評価基準は、同一需給圏内の類似地域や近隣地域の周辺の地域から事例を選ぶことを認めている
  • 地価公示や都道府県地価調査、原価法、収益還元法を組み合わせ、試算価格の開きの理由を検討して価格を決める
  • 積算価格は需要の弱い地域では高く出やすく、「高い数字を選べばよい」わけではない
  • 固定資産税評価額は目安の一つであり、合意がないときの時価の根拠としては弱い

地方や郊外に持ち家があり、「査定が出ない」「土地の値段しかつかない」と言われて困っている方、相手の示す金額が妥当なのか判断できずにいる方。事例が少ない地域だからこそ、評価の組み立て方が結論を大きく左右します。依頼者の地方の不動産について評価の根拠を整えたい弁護士の先生も同様です。

取引事例の少ない地域にある自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。お手元の資料と物件の所在地をうかがったうえで、価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが適しているかをご提案します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

不動産鑑定士が財産分与の不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は財産分与の不動産鑑定のページでまとめています。

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