評価の実務

3,000万円の家の3分の1は1,000万円ではない──離婚で共有持分を分けるときの評価

夫婦以外に共有者がいる家は、全体価格に持分割合を掛けた金額では売れません。按分が成り立たない理由を民法の規律から分解し、想定ケースで按分額1,000万円と市場価値600万円の差を示したうえで、協議の設計までご説明します。

著者:吉田 健人·読了 約14分
3,000万円の家の3分の1は1,000万円ではない──離婚で共有持分を分けるときの評価

「家の名義は、夫と私と、夫のお父さんの3人です」。離婚のご相談でこう切り出される方は、思っているより多くいらっしゃいます。実家の土地に建てた、親から資金を出してもらったときに持分を入れた、相続で兄弟と分けた家に夫婦で住んでいる。経緯はさまざまですが、結果として夫婦以外の共有者がいる不動産が財産分与の対象になります。

このとき、ほとんどの方が最初にこう計算します。「家全体が3,000万円だから、持分3分の1は1,000万円」。この計算は、相続税の世界では正しく、財産分与の世界では正しくありません。共有持分は、全体の価格を持分割合で割った金額では売れないからです。

私たち鑑定士は、この差を数字として示す立場にあります。この記事では、なぜ単純按分にならないのかを構造から説明し、想定されるケースで減価の幅を示し、協議をどう設計すればよいかまでをご説明します。共有関係の法的処理は弁護士に、税金の取扱いは税理士にご確認ください。

なぜ「全体価格 × 持分割合」にならないのか

按分が成り立たない理由は、感覚的な値引きではありません。持分という財産そのものの性質から来ています。

単独では、使うことも売ることもできない

共有者は、共有物の全部についてその持分に応じた使用ができると民法第249条第1項が定めています。「全部について」使えるのですが、あくまで「持分に応じて」であり、独り占めはできません。

そして、家そのものを売るには共有者全員の同意が必要です。自分の持分だけなら単独で売れますが、買った人も同じ制約を引き継ぎます。「買っても住めない、貸すのも自由にならない、売るには他人の同意が要る」財産に、按分どおりの金額を払う人はいません。

買い手が、実質的に他の共有者しかいない

3分の1の持分を市場に出したとして、誰が買うでしょうか。見知らぬ他人と共有関係に入り、使用方法をめぐって交渉し、まとまらなければ裁判所の手続きに進む。この手間を引き受けてまで買う一般の買主は、まず存在しません。現実の買い手は、他の共有者か、共有持分を専門に扱う買取業者のどちらかです。前者は「買わなくても住み続けられる」立場であり、後者は転売の利益を織り込みます。どちらも按分額を払う動機がありません。買い手が限られることが価格を押し下げる、この構造を私たちは市場性の減価と呼びます。

相続税評価は按分、市場価値は按分しない

混乱の原因は、税務の世界に按分のルールが実在することにあります。財産評価基本通達2(共有財産)は、共有財産の持分の価額を、その財産の価額を持分に応じてあん分した価額によって評価すると定めています。相続税の計算では、3,000万円の家の3分の1は1,000万円で処理されます。

しかし財産分与で問題になるのは、課税のための評価額ではなく、その財産を現実にいくらで換金できるかです。相続税申告書の数字をそのまま分与の基準に持ち込むと、按分の発想が入り込みます。税務上の評価額と市場価値は別物だと押さえてください。申告の取扱いは税理士にご確認ください。

共有者は何ができて、何ができないのか

減価の幅を考える前に、持分を持つとは何ができることなのかを整理します。ここが曖昧なままだと、「持分を取得すれば家をどうにかできる」という誤解のまま協議が進みます。

行為の種類で、必要な同意が変わります

民法は、共有物に対する行為を3つに分けています。

行為の種類具体例必要な同意
変更(処分を含む)売却、建替え、大規模増改築共有者全員
管理短期の賃貸、賃貸借の解除、使用方法の決定持分価格の過半数
保存修繕、不法占拠者への明渡請求各共有者が単独で可能

変更には共有者全員の同意が必要であること(民法第251条第1項)、管理に関する事項は各共有者の持分の価格の過半数で決すること、保存行為は各共有者が単独でできること(民法第252条第1項・第5項)が、それぞれ定められています。

この表から分かるのは、3分の1の持分には「単独で決められること」がほとんどないという事実です。過半数に届かないため、管理の決定にも加われません。持分割合が2分の1を超えるかどうかは、価値の面で大きな分かれ目です。

出口はある、ただし時間がかかります

持分が動かせない財産だとしても、共有状態を終わらせる道は用意されています。各共有者はいつでも共有物の分割を請求できると民法第256条第1項が定めており、協議が調わないときや協議ができないときは裁判所に分割を請求できます。令和3年の民法改正(令和5年4月1日施行)により、裁判所が命じられる分割方法として、現物分割に加えて賠償分割が民法第258条第2項第2号に明文化されました。どちらもできないときは競売による分割です(同条第3項)。この手続は離婚後に残った共有名義を解消する──共有物分割請求という手段にまとめています。

ただし訴訟には時間と費用がかかります。「いずれ分割請求すればよい」という見込みは、そこまでの期間と費用を織り込んで初めて価値の裏づけになります。

数字で見る──想定されるケース

ここから具体的な数字で見ていきます。実在の案件ではなく、ご相談で多い形を抽象化した想定ケースです。

前提条件

夫の実家の敷地に、夫の父が資金の一部を出して建てた戸建てを考えます。

  • 土地:165平方メートル、建物:木造2階建て、延床105平方メートル、築15年
  • 登記上の持分は、夫3分の1・妻3分の1・夫の父3分の1
  • 全体としての時価(鑑定評価額):3,000万円
  • 住宅ローン残債:なし
  • 現在は夫婦と夫の父が同居。離婚後は妻が家を出る

按分で計算すると、こうなります

妻の持分3分の1は、全体3,000万円の3分の1で1,000万円。夫が妻の持分を取得する形なら、夫は妻に1,000万円を支払う。これが按分の計算です。妻が持分を持ったまま家を出るなら、妻は1,000万円の財産を持ち続けている計算になります。ところが、この1,000万円は現金化できません。

市場価値で計算すると、こうなります

妻の持分を第三者に売る前提で考えます。買主は、家に住んでいる夫と夫の父を相手に、使用方法の交渉から始めなければなりません。まとまらなければ共有物分割訴訟です。訴訟の期間を1年から2年、弁護士費用と鑑定費用を見込み、その間の収益はゼロ。これらはすべて価格に織り込まれます。

こうした条件のもとで、持分の市場価値を按分額の50パーセントから70パーセント程度と見るのが、実務上の一つの目安です。仮に60パーセントとすれば、

1,000万円 × 0.6 = 600万円

按分額との差は400万円です。この400万円をどちらが負担するのかが、この類型の本当の争点になります。

分与の計算に、どう落とすか

考え方は、妻の持分が誰に渡るかで変わります。

  • 夫が妻の持分を取得する場合:夫の持分は3分の2となり、管理の決定権を握ります。夫にとっての価値は第三者が買う場合より明らかに高く、按分額1,000万円に近い金額を基準とするのが公平です
  • 妻が持分を持ったまま離婚する場合:妻が手にするのは換金しにくい財産です。1,000万円の資産を取得したものとして計算されると、妻は他の財産を受け取れなくなり、実質的に損をします

つまり同じ持分でも、誰が取得するかで妥当な評価は変わります。私たちが評価の前提条件と呼んでいるのは、この設定のことです。前提を決めずに「持分の価格はいくらですか」と問われても、答えは一つに定まりません。なお減価率はこの想定での数字であり、実際には持分割合・共有者の属性・占有の状況・分割協議の見込みを調べたうえで判断します。

減価の幅は、何で決まるのか

50パーセントから70パーセントという幅の、どこに着地するのか。私たちが見る着眼点は次のとおりです。

持分割合が過半数を超えるか

過半数を超えれば管理の決定権を握れます。3分の2の持分と3分の1の持分では、按分額が2倍違うだけでなく、1単位あたりの価値も違います。過半数の持分は減価が小さく、少数持分は減価が大きくなります。

他の共有者が誰で、誰が住んでいるか

共有者が元配偶者だけなら、交渉相手は1人です。共有者が親、さらにその兄弟と広がると、全員の同意を要する場面で交渉が止まります。また、共有者の一人が住んでいる家の持分は、買主から見れば明渡しを求めるところから始まります。共有者の人数と占有の状況は、いずれも減価を広げる方向に働きます。

分割協議がまとまる見込みがあるか

他の共有者が「買い取ってもよい」と言っているなら、出口は近く、減価は小さくて済みます。連絡が取れない共有者がいるなら話は逆です。もっとも、所在等が不明な共有者については、裁判所の裁定によりその持分を取得できる制度が民法第262条の2に用意されています。行き止まりではありませんが、手続の期間は価格に反映されます。

買取業者の提示額を、分与の基準にしないでください

共有持分を扱う買取業者に問い合わせれば、その場で金額が出ます。ただし、その数字をそのまま協議の土台にするのは危険です。

買取業者は、買い取った持分を他の共有者に売る、あるいは共有物分割訴訟を経て換価することで利益を得ます。訴訟のリスクと期間、そして自社の利益を織り込むため、提示額は按分額の3割程度まで下がることもあります。これは市場での適正な価値というより、業者の仕入れ価格です。査定額の性質は離婚時の「無料査定」の正しい使い方──タダには理由があるでも整理していますが、共有持分ではこのズレがさらに大きくなります。

使うとすれば、「最悪の場合いくらで換金できるか」の下限としてです。相手方が按分額を主張し、こちらが業者の提示額を主張する構図になれば、話は平行線をたどります。私たちが価格等調査報告書や鑑定評価書を作るのは、その中間に根拠のある数字を置くためです。

出口──分与の段階で、共有を終わらせる

最も確実な解決は、評価で争うのではなく共有状態そのものを終わらせることです。財産分与の方法は現物分与・代償分与・換価分与の3つで、この整理は家の分け方は3つしかない──現物分与・代償分与・換価分与にまとめています。

現実的な第一候補は、家に残る側が出ていく側の持分を取得し、代償金を支払う形です。家に残る側は持分を集約できるため、按分額に近い評価でも引き合います。資金は住宅ローンの借り換えで手当てするのが一般的ですが、審査は取得する側の収入だけで行われます。金融機関に事前相談をしてから金額を固めてください。

避けるべきは、持分を持ったまま離婚することです。元配偶者とその親族との共有関係が続き、売るにも貸すにも同意が要ります。いずれ相続が起きれば共有者はさらに増え、その後で分割を求める難度は離婚時の比ではありません。なお持分の移転には登記が必要で、協議書に書いただけでは名義は動きません。手続は司法書士にご確認ください。

まとめ

夫婦以外に共有者がいる家は、按分の計算では扱えません。持分という財産の性質と、誰が取得するのかという前提の2つを押さえることが出発点です。要点を振り返ります。

  • 共有持分は単独で使えず単独で売れないため、全体価格を持分割合で割った金額では売れない
  • 相続税には按分のルールがあるが(財産評価基本通達2)、財産分与で問うのは換金可能性であり別物である
  • 変更は全員、管理は持分価格の過半数、保存は単独(民法第251条第1項・第252条第1項および第5項)。持分が過半数を超えるかが価値の分かれ目になる
  • 想定ケースでは、按分額1,000万円に対し持分の市場価値は600万円。差額400万円の負担が争点になった
  • 減価の幅は、持分割合・共有者の属性・占有の状況・分割協議の見込みで決まる
  • 買取業者の提示額は仕入れ価格であり、協議の基準ではなく下限として使う
  • 最も確実な解決は、分与の段階で持分を集約し、共有を残さないこと

親や親族と共有名義になっている家の離婚を進めておられる方、共有持分が論点になった事案を抱えておられる弁護士の先生へ。この類型でまず必要なのは、持分の値段を当てにいくことではありません。登記事項証明書で共有者と持分割合を確定し、全体の価格を適正に求め、そのうえで誰が取得する前提なのかを決める。この順番で進めれば、持分の評価は根拠のある数字として出せます。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。共有持分の減価をどこまで見込むべきか、相手方が示した按分額にどう反論するかという段階のご相談でも構いません。協議の材料として使う価格等調査報告書(不動産鑑定士が調査のうえ価格を示す報告書で、鑑定評価書より調査範囲や記載事項を限定したもの。10万円から15万円程度、税別)と、共有物分割訴訟まで見据えた鑑定評価書(20万円から60万円程度、税別)のどちらが適しているかも、あわせて整理します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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