査定額が1,000万円違ったら──価格が折り合わない財産分与を動かす4つの打開策
査定額に1,000万円の開きが出て話し合いが止まる。不動産に「正しい1つの数字」が無いことから生じる対立です。中間を取る・第三者評価を入れる・売却して実額で分ける・価格に幅を持たせ条件で調整する。4つの打開策を費用と期間、向く場面で比べました。

「こちらの査定は4,200万円、相手方は3,200万円。この1,000万円の差が、どうしても埋まりません」。離婚の話し合いが、家の値段のところで止まってしまう。財産分与のご相談で、この対立はよく起こります。
止まっている期間は、当事者にとって無為な時間ではありません。ローンは毎月引き落とされ、固定資産税の納期は来て、相手と顔を合わせるたびに同じ話を蒸し返す。それでも双方が自分の数字を譲らないのは、どちらかが不誠実だからではなく、不動産には誰もが納得する「正しい1つの数字」が存在しないからです。
私たち鑑定士は、この対立の中身を見る立場にあります。そして断言しますが、価格の対立は、価格の議論だけでは解けないことがあります。数字を近づける方法と、数字を決めずに済ませる方法の両方を知っておくと、止まっていた話し合いは動き出します。この記事では、調停の場でも協議の場でも使える4つの打開策を、成立しやすさと費用の観点から並べて比べます。法的な手続きの選択についてはご依頼の弁護士に、税務については税理士にご確認ください。
なぜ価格で話が止まるのか
まず前提を共有させてください。対立の原因は、多くの場合、相手の主張が不当だからではありません。
査定額は「売るための提案価格」です
不動産会社が出す査定額は、媒介契約を獲得するための営業活動のなかで提示される価格です。宅地建物取引業法第34条の2第2項は、媒介契約に際して価額の意見を述べるときはその根拠を明らかにすべきことを定めていますが、根拠の示し方まで統一されているわけではありません。
つまり、査定額は「この価格で売り出してはどうか」という提案であって、「この不動産の価値はいくらか」という評価とは目的が違います。同じ家について複数社が出した数字が1,000万円ずれることは、珍しくも不正でもありません。
立場が、数字の選び方を変えます
家を出る側は高い査定を持ってきます。代償金(財産を多く取得する側が、もう一方へ支払う調整金)が増えるからです。家に残る側は低い査定を持ってきます。支払う代償金が減るからです。
ここで査定書を追加で取ると、選択肢が増えるぶん、双方が自分に有利な1通ずつを握って対立が固定化します。この構造は査定書を何通も集めるほど、話し合いがこじれる理由で詳しく整理しています。
動かないこと自体にコストがあります
ここで意識していただきたいのが、停滞のコストです。仮に4,000万円の自宅、ローン残1,800万円、金利1.0%のケースを考えます。話し合いが半年延びれば、その間の利息負担はおよそ9万円、固定資産税・都市計画税と管理費・修繕積立金を合わせれば、年間で数十万円が出ていきます。加えて、弁護士に依頼していれば期日が増えるほど費用もかかります。
「1,000万円は譲れない」という感覚は自然なものですが、その1,000万円が代償金の差額としていくらになるのかを先に計算すると、見え方は変わります。純資産(評価額からローン残債を引いた額)を2分の1ずつ分けるなら、評価額の1,000万円差は代償金では500万円差です。停滞のコストと比べて、争い続ける価値がある金額なのか。この見極めが打開の出発点になります。
打開策1:双方の査定の中間を取る
最も単純で、最も多く使われている方法です。
費用はゼロ、時間もかかりません
追加の支出がなく、その場で結論が出ます。先ほどの例なら、4,200万円と3,200万円の中間で3,700万円。ローン残1,800万円を引いた純資産1,900万円を折半し、代償金は950万円となります。調停委員から提案されることも多い、現実的な着地点です。
ただし「中間が正しい」とは限りません
注意していただきたいのは、中間値に理論的な裏づけは無いという点です。片方が極端に高い数字を持ち出せば、中間値はその方向へ引っ張られます。交渉の技術として高値の査定を出す動きがあると、中間案は不利に働きます。
ですから、中間案を検討する前に、双方の査定書の根拠を見比べてください。比較に使われた取引事例の場所・時期・面積・階数が対象の家と近いか。大幅な補正がかかっていないか。それを確認するだけで、中間値の当否は判断できます。
中間案が向く場面
双方の査定の開きが1割以内で、その差が代償金に与える影響が数十万円にとどまるとき。このときは中間案が合理的です。第三者に評価を頼む費用のほうが、争っている金額を上回ってしまうからです。
打開策2:第三者の評価を1つだけ入れる
開きが大きく、中間値では納得できないとき。次に検討するのが、双方から独立した専門家の評価を1つ入れる方法です。
「共同で1人に頼む」という形
当事者それぞれが別の鑑定士に依頼すれば、また2つの数字が並ぶだけです。打開のために有効なのは、双方が合意したうえで1人の不動産鑑定士に共同で依頼し、費用も折半する形です。
このとき大切なのは、評価を依頼する前に「出てきた価格を前提に協議する」という合意を取り付けておくことです。結果を見てから従うかどうかを決める運用では、不利な側が受け入れず、費用だけが残ります。私たちがご依頼を受ける際も、双方の了解が取れているかを必ず確認しています。
価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け
第三者評価には2つの水準があります。ひとつは価格等調査報告書(不動産鑑定士が調査のうえ価格を示す報告書で、鑑定評価書より調査範囲や記載事項を限定したもの)で10万円から15万円程度。もうひとつが不動産鑑定評価基準に沿った鑑定評価書で20万円から60万円程度が目安です(いずれも税別。対象や難易度によって変わります)。
協議や調停の場で双方の納得材料として使うなら、価格等調査報告書で足りる場面が多くあります。一方、審判や訴訟まで見据えるなら、鑑定評価書が必要です。両者の違いは価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのか──費用と「使える場面」で選ぶにまとめました。
裁判所鑑定との違い
なお、調停が不成立となり審判や訴訟へ進んだ場合、裁判所が鑑定人を選任する裁判所鑑定という手続きもあります。こちらは鑑定人を裁判所が選び、費用は申し立てた側が先に予納します。金額は数十万円から百万円を超えることもあり、期間も長くかかります。詳しくは離婚で裁判所鑑定になったら何が起きるのか──申立て・費用の予納・現地調査の時系列をご覧ください。
当事者が共同で依頼する評価は、この裁判所鑑定に進む前に、より安く・より早く合意点を作るための手段だとお考えください。
打開策3:売却して、実額で分ける
価格を決められないなら、市場に決めてもらう。これが換価分与(不動産を売却し、代金を分ける方法)です。
価格を「決める」必要がなくなります
この方法の最大の利点は、評価という論点そのものが消えることです。実際に成立した売買代金から諸費用とローン残債を差し引き、残った現金を分けるだけになります。どちらの査定が正しいかを争う理由がなくなります。
手取りは売買価格ではありません
ただし、手元に残る金額は売買代金より確実に小さくなります。先ほどの例で3,700万円で売れたとして、差し引かれるものを並べます。
仲介手数料は、宅地建物取引業法第46条に基づく国土交通省告示により、売買代金400万円超の部分について「売買代金の3%+6万円」に消費税を加えた額が上限です。3,700万円なら128万7,000円になります。ほかに売買契約書の印紙税(軽減措置の適用を受けて1万円)、抵当権抹消の登記費用が2万円前後。合計131万7,000円ほどが売却に伴う費用です。
これらとローン残債1,800万円を引くと、手元に残るのは1,768万3,000円。折半すれば884万1,500円です。打開策1で計算した代償金950万円と比べると、約66万円少なくなります。この差が、売却という手段を選んだコストです。
なお、売却益が出る場合は譲渡所得税が問題になります。居住用財産の3,000万円特別控除が使えるかどうかで結論が大きく変わり、離婚の前後どちらで売るかによっても取扱いが異なります。必ず税理士にご確認ください。
売れるまでの時間と、売れなかったときの備え
換価分与を選ぶなら、売却できなかった場合の取り決めを先にしておいてください。3か月経っても買い手がつかなければ売出価格を5%下げる、6か月経っても成約しなければ再協議する、といった内容です。
また、売却代金がローン残債を下回るオーバーローンの状態では、金融機関の同意がなければ売却そのものができません。この場合は換価分与という選択肢が最初から使えない点にご注意ください。
打開策4:価格に幅を持たせ、条件で調整する
4つめは、数字を1点に決めることを諦める方法です。協議・調停のいずれでも使えます。
数字ではなく「幅」で合意する
たとえば「自宅の評価は3,400万円から4,000万円の間とし、代償金は900万円とする」という合意です。評価額の一致を目指さず、最終的に動く金額だけを決めます。
双方とも「自分の主張した価格が否定されていない」形が保てるため、心理的な抵抗が下がります。合意文書には評価額を書かず、支払う金額と支払期限だけを記載する形が使われます。
将来の売却時に精算する条項
もうひとつが、当面は結論を出さず、将来売却したときの実額で精算する方法です。「取得した側が5年以内に売却した場合、売却代金から諸費用とローン残債を控除した額の30%を相手方に支払う」といった条項を置きます。
価格が読みにくい局面で有効ですが、長期にわたって相手との関係が続く点、取得した側がリフォーム費用を投じた場合の扱いなど、詰めるべき点が多くあります。条項の文言は必ず弁護士にご確認ください。
他の財産で吸収する
そもそも財産分与は、不動産だけを切り出して行うものではありません。預貯金、退職金、保険の解約返戻金を含めた全体で調整します。評価額の差500万円(代償金ベース)を、預貯金の配分比率や退職金の按分割合で吸収できれば、不動産の価格そのものを決着させる必要はなくなります。全体を一覧にしてから調整余地を探すほうが、家の値段だけを睨み続けるより早く着地します。
4つの打開策を並べて比べる
ここまでの内容を、費用・期間・向く場面で整理します。
| 打開策 | 追加で必要な費用 | 決着までの目安 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 中間を取る | なし | 即日 | 開きが1割以内 |
| 第三者評価 | 10〜60万円(折半) | 3〜6週間 | 開きが大きく双方が数字を求める |
| 売却して分ける | 売買代金の約3.5% | 3〜6か月 | 双方が家に執着していない |
| 幅と条件で調整 | なし | 数週間 | 他に分ける財産がある |
成立しやすさと費用は逆に動きません
費用をかければ成立しやすくなる、という単純な関係にはありません。最も費用のかからない「幅と条件で調整する」方法が、結果として最も早く決着することもあります。
判断の基準は、争っている金額が打開策の費用を上回るかどうかです。代償金の差が500万円なら、15万円の価格等調査報告書は十分に見合います。差が50万円しかないなら、中間案か条件調整で決めるほうが合理的です。
それでも決まらないときの出口
どの方法でも合意に至らない場合、家庭裁判所が職権で結論を示すことがあります。家事事件手続法第284条第1項は、家庭裁判所が相当と認めるときに、調停に代わる審判をすることができると定めています。財産分与は同法の別表第二に掲げられた事項であり、この審判の対象に含まれます。
ただし、当事者は審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議があれば審判は効力を失います(同法第286条)。その場合、家事調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされ、手続きは審判へ移行します。つまり、決着を先送りするほど、当事者が結論をコントロールできる余地は小さくなっていきます。
まとめ
価格が折り合わないとき、必要なのは「正しい1つの数字」を探すことではありません。数字を近づける方法と、数字を決めずに済ませる方法を並べ、争っている金額に見合うものを選ぶことです。要点を振り返ります。
- 査定額は売るための提案価格であり、1,000万円の開きは不正でも異常でもない
- 評価額の1,000万円差は、純資産を折半するなら代償金では500万円差になる
- 中間を取る方法は無料で早いが、極端な査定に引っ張られる弱点がある
- 第三者評価は双方の共同依頼とし、「結果を前提に協議する」合意を先に取る
- 換価分与は評価の論点が消える一方、売却費用の分だけ取り分が減る
- 幅と条件で調整する方法は、他に分ける財産があるときに最も早く着地する
話し合いが価格のところで止まっている方、依頼者の財産分与で価格の対立を抱えておられる弁護士の先生へ。止まっている理由が査定額の開きにあるのなら、その開きが何に起因しているのかを整理するだけで、進む方向は見えてきます。どの打開策を選ぶべきかは、開きの大きさと、家に残りたいかどうかで決まります。
離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが必要か、そもそも第三者評価を入れるべき事案かという段階から、一緒に整理させていただきます。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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