離婚すると住宅ローン控除はどうなるのか──出ていく側は止まり、残る側は続く
住宅ローン控除は「その家に住んでいること」が要件です。離婚で家を出た側は転居した年から控除を失い、住み続ける側は続きます。年末残高3,000万円・控除21万円を例に、出ていく側・残る側・ペアローンの3パターンで金額を試算し、借り換えや持分取得の注意点も整理します。

離婚の話し合いで住宅ローンが議題に上るとき、返済をどちらが続けるか、名義をどうするか、といった論点は必ず出てきます。ところが、その隣にある住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除。年末のローン残高に応じて所得税・住民税が軽くなる制度)の行方は、ほとんど話題に上りません。
理由ははっきりしています。控除は毎年、年末調整や確定申告で自動的に戻ってくるお金であり、意識しなくても受け取れていたからです。しかし離婚を境に、この控除は片方から消え、もう片方には残ります。しかも消えるほうには、いつ消えるのかという通知も届きません。気づくのは翌年、還付額がゼロになったときです。
この非対称がどこから生まれるのかというと、制度の要件そのものです。住宅ローン控除は「その家に住んでいること」を条件とする制度であり、家を出た人は、その瞬間から対象外になります。この記事では、出ていく側と残る側で控除がどう変わるのかを、年間21万円という具体的な金額を置いて整理します。私たち鑑定士は税額を計算する立場ではありませんので、個別の判断は必ず税理士にご確認ください。ただし、失われる控除の総額をどう財産分与に反映させるかという議論は、最後は自宅の時価という土台に戻ってきます。そこは私たちの領域です。
制度の要件は「12月31日に住んでいるか」
居住継続要件という考え方
住宅ローン控除の適用要件のなかに、次の一文があります。「この特別控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること」(国税庁タックスアンサーNo.1211-1)。
判定は年末時点の一点で行われます。1月から11月まで住んでいても、12月31日に住んでいなければ、その年分の控除は受けられません。逆に、年の途中で戻ってきて年末に住んでいれば要件を満たします。日割りや月割りという考え方はありません。
控除額はどう決まるか
令和4年以降に入居した場合、控除率は年末残高の0.7%、控除期間は原則13年です(住宅の省エネ性能と居住年によって借入限度額が異なります)。年末残高3,000万円なら、年間の控除額は21万円です。
ただし、実際に戻る金額はその年の所得税額が上限で、所得税から引ききれない分は住民税から控除されます。住民税側の上限は課税総所得金額等の5%、最高97,500円です。手取りへの影響を見積もるときは、この頭打ちも考えに入れてください。
単身赴任の特例は、離婚では使いにくい
転勤で本人だけが家を離れ、配偶者や扶養親族が引き続き住んでいる場合には、本人が住み続けているものとして扱う取扱いがあります(同No.1234)。しかしこれは「日常の起居を共にしない親族が住んでいる」ことを前提にした制度です。離婚によって家族関係そのものが解消される場面で、この取扱いをそのまま当てはめられるとは限りません。
出ていく側──控除は転居した年から止まる
年間21万円が、その年から消える
夫名義の自宅から夫が出ていき、妻子が住み続けるケースを考えます。ローン名義も夫、年末残高は3,000万円、控除期間は残り8年とします。
| 項目 | 転居前 | 転居した年以降 |
|---|---|---|
| 年末に居住しているか | している | していない |
| 年間の控除額 | 21万円 | 0円 |
| 残り8年間の合計 | 168万円 | 0円 |
転居した年の年末に住んでいないため、その年分から控除は受けられません。年内に別居した場合、すでに勤務先で年末調整の書類を出していても、あとから修正が必要になります。
「残り年数×控除額」という見えない損失
ここで注意していただきたいのは、失われるのが今年の21万円だけではないという点です。残り8年分、合計168万円が一度に消えます。金額としては、財産分与で争われる評価差額と同じ桁になることも珍しくありません。
にもかかわらず、この損失は協議書にも調停調書にも表れません。ローン残高や不動産の評価額のように、書面上の数字として現れないからです。出ていく側の立場に立つなら、話し合いの初期にこの金額を計算し、テーブルに載せておくべきだと私たちは考えます。
再適用の特例は使えるのか
いったん住まなくなった家に再び住み始めたときに控除を再適用する制度はあります。ただし要件は「勤務先からの転任の命令その他これに準ずるやむを得ない事由」であること、そして住まなくなる日までに所定の届出書を税務署へ提出しておくことです(同No.1234)。想定されているのは転勤や転地療養です。離婚による転居がこれに準ずるかどうかは個別判断になりますので、転居の前に税理士へご確認ください。届出は「住まなくなる日まで」に出す必要があり、後追いができません。
残る側──控除は続くが、条件がつく
自分名義の借入が残っていることが前提
家に残る側の控除は、居住継続要件を満たす限り続きます。ただし当然ながら、控除の対象になるのは自分が債務者である借入金です。夫名義のローンが残る家に妻が住み続けても、妻に控除は生じません。夫のほうは住んでいないので控除が止まる。結果として、二人合わせた控除額はゼロになります。
この状態は控除だけの問題ではなく、名義と居住と債務がずれた不安定な形そのものです。控除が受けられないという結果は、その形のひとつの表れにすぎません。
相手の持分を財産分与で取得したとき
共有名義の自宅について、残る側が相手の持分を財産分与で取得した場合はどうなるか。国税庁は、離婚による財産分与で居住用家屋の共有持分を追加取得したときは、新たに家屋を取得したものとして控除の適用を受けられるとしています(同No.1237)。もともと持っていた持分と、新たに取得した持分の両方が対象になります。控除額が変わるため、あらためて確定申告が必要です。
なぜ適用できるのかというと、財産分与による取得は贈与による取得ではなく、離婚が成立していれば「生計を一にする親族からの取得」にも当たらないからです。逆にいえば、離婚成立前に持分だけ先に動かした場合、この整理が崩れる可能性があります。順序の問題です。
借り換えたときの落とし穴
相手の持分を買い取る資金を含めて借り換える、という進め方はよくあります。このとき控除が続くかどうかは、次の2点で判断されます(同No.1233)。
- 新しいローンが、当初の住宅ローンの返済のためのものであることが明らかであること
- 新しいローンが償還期間10年以上など、控除の対象となる要件に当てはまること
そして、新しい借入額が借換え直前の残高を上回る場合、控除の対象になるのは年末残高の全額ではありません。「新しいローンの年末残高 × 借換え直前の当初ローン残高 ÷ 新しいローンの借入額」で按分した金額が対象になります。当初残高2,000万円のところを2,600万円借りたなら、対象は年末残高の約77%です。借り換えの段取りそのものは離婚とローン借り換え──「家をもらう側」が先に銀行へ行くべき理由をご覧ください。
ペアローンは、二人分の控除が一人分にも満たなくなる
想定されるケース
夫婦がそれぞれ1,500万円ずつ借りたペアローンの自宅で、夫が出ていき妻が住み続けるとします。
| 立場 | 離婚前の控除額 | 離婚後の控除額 |
|---|---|---|
| 夫(出ていく) | 10.5万円 | 0円 |
| 妻(住み続ける) | 10.5万円 | 10.5万円 |
| 世帯合計 | 21万円 | 10.5万円 |
世帯として見れば、控除額は半分になります。さらに、妻が夫の持分と債務を引き受けて一本化すると、前項の借換えの按分が効いてきます。ペアローンは控除枠を二人分使えることが利点でしたが、離婚ではその構造がそのまま不利に転じます。ペアローン全体の整理手順はペアローンの家は離婚でどう分けるのか──名義・債務・評価の三重の整理にまとめています。
「使えるはずだった控除」を分与で調整できるか
失われる控除を財産分与で埋め合わせられないか、という発想は自然です。実務上、これを独立した分与項目として立てるのは簡単ではありません。控除は将来の所得税額に依存し、収入が下がれば控除しきれない年も出てくるためです。確定した債権のように扱える性質のものではありません。
現実的なのは、清算金の金額を決めるときの調整材料として持ち出す進め方です。そのためには、失われる控除の総額を年ごとに計算した資料を用意しておく必要があります。ここも税理士の領分ですので、試算の妥当性は必ず確認を取ってください。
控除の議論は、結局「時価」の上に乗っている
分与額が決まらなければ、調整もできない
控除の損失を清算金で調整するにしても、そもそもの清算金が決まっていなければ話が進みません。清算金は「自宅の時価 − ローン残高」を二人で分けるところから出発します。時価が動けば分与額が動き、控除の調整余地も動きます。
ローン残高は銀行の残高証明書で一意に決まります。争いになるのは、いつも時価のほうです。不動産会社の無料査定は成約見込価格であって、鑑定評価とは目的も責任も異なります。金額の根拠を書面で示す必要がある場面では、価格等調査報告書または鑑定評価書という形をとります。税金全体の見取り図は財産分与の税金は「渡す側」にかかる──離婚で家を分けるときの3つの税目と試算で扱っています。
順序を間違えないために
住宅ローン控除に関しては、離婚成立の前後・転居の前後という「順序」で結論が変わる論点が繰り返し出てきます。再適用の届出は住まなくなる日まで。持分の移転は離婚成立後。借り換えは残高の範囲内で。いずれも、動いてしまってからでは戻せません。
まとめ
住宅ローン控除は「住んでいること」を要件とする制度です。したがって離婚で家を出た側は転居した年から控除を失い、住み続ける側は自分名義の借入がある限り控除が続きます。この非対称は、残り年数によっては百万円単位の差になります。
要点を振り返ります。
- 判定は12月31日時点の居住の有無で行われ、日割りの考え方はない
- 出ていく側は転居した年分から控除を失う。残り年数分をまとめて失うと捉える
- 再適用の特例は転任命令等が前提で、住まなくなる日までの届出が必要
- 残る側は控除が続く。財産分与で相手の持分を追加取得した場合も、新たな取得として適用対象になり得る
- 借り換えで当初残高を超えて借りると、控除対象額は按分される
- ペアローンでは世帯の控除額がおおむね半分になる
離婚に伴って自宅とローンの扱いを決めようとしている方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生にとって、住宅ローン控除は「気づかないまま失われる金額」の代表格です。控除の損失を清算金で調整するという発想を持つなら、その土台になる自宅の時価を、根拠のある金額で押さえておく必要があります。なお、控除の可否や税額の試算そのものは税理士の職域ですので、必ずご確認ください。
離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。価格等調査報告書、鑑定評価書、他社査定へのセカンドオピニオンのいずれが適しているかを含めて、状況を伺ったうえでご案内します。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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