財産分与の基礎

事実婚の財産分与で家は分けられるのか──法律婚との3つの違い

事実婚・内縁でも、生前の解消なら家は財産分与の対象になるのが一般的な扱いです。一方で死亡時・税の特例・関係の証明では法律婚と大きく違います。3つの違いを対比表で整理し、内縁の開始時点が2年ずれると分与額が135万円変わる想定ケースを示します。

著者:吉田 健人·読了 約14分
事実婚の財産分与で家は分けられるのか──法律婚との3つの違い

「籍を入れていないから、別れたら家は名義人のものになるのでは」。事実婚や内縁関係を解消するとき、財産分与の対象に家が入るのかどうかは、多くの方が最初につまずく疑問です。婚姻届を出していない以上、離婚の規定は関係ないように思えるかもしれません。

結論から言うと、事実婚(内縁)を生前に解消する場合には、離婚の財産分与の規定が類推適用される(似た関係として同じルールを当てはめる)というのが裁判所の一般的な扱いです。二人で協力して築いた家であれば、名義が一方だけでも、財産分与として分けることを求められます。一方で、相手が亡くなって関係が終わった場合には財産分与は認められず、税金や登記、そもそも「いつから夫婦同然だったか」の証明の場面では、法律婚とはっきり違う点があります。

この記事では、私たち鑑定士の立場から、事実婚の財産分与で家を分けるときに法律婚と違う3つの点を対比表で整理し、家の評価で特に注意したい「内縁の開始時点」の問題を想定されるケースの数字で確認します。個別の法的判断は弁護士に、税金の扱いは税理士にご確認ください。

事実婚の財産分与で家は分けられるのか

生前の解消なら「離婚の財産分与」が類推される

民法第768条は、協議上の離婚をした者の一方が相手に財産の分与を請求できると定めています。事実婚・内縁は婚姻届を出していない関係ですが、実態として夫婦と同じ共同生活を送っていたのであれば、関係を解消するときにもこの規定を類推適用するのが一般的な扱いです。最高裁判所も、離別による内縁解消の場合に財産分与の規定を類推適用することには合理性がある、という考え方を示しています(最高裁判所 決定 平成12年3月10日)。

したがって、内縁関係の間に二人の収入で住宅ローンを返してきた家は、登記が一方の単独名義であっても、財産分与の対象になり得ます。「籍を入れていないから何も請求できない」と最初からあきらめる必要はありません。

家庭裁判所の調停も使える

話し合いでまとまらない場合、家庭裁判所に「内縁関係調整調停」を申し立て、その中で財産分与を話し合うことができます。財産分与の部分は、調停で合意できなければ審判で判断される扱いがされることもあります。手続の流れは法律婚の離婚調停とかなり近く、不動産の評価額が争点になる場面も同じように出てきます。調停で不動産の価格が話題になる場面は離婚調停の流れと不動産の扱いで整理しています。

請求できる期間にも注意する

離婚の財産分与には請求期間の制限があります。2026年4月1日に施行された改正民法では、離婚の時から5年に延びました(それより前に離婚した場合は2年のまま)。内縁の解消にこの期間がどう当てはめられるかは、類推適用の枠組みの中で判断されるため、解消から時間がたっている場合は早めに弁護士へご相談ください。期間のルール自体は財産分与の請求期限は2年か5年かで解説しています。

事実婚と法律婚の3つの違い──家を分ける場面で何が変わるか

財産分与で家を分けるという点では、事実婚も法律婚に近い扱いを受けます。ただし、周辺の制度まで含めると、違いがはっきり出る場面が3つあります。

場面法律婚(離婚)事実婚・内縁(解消)
①相手の死亡で終わった場合相続で清算(配偶者は相続人)財産分与も相続も原則なし
②税金の特例配偶者向けの特例がある配偶者向けの特例は使えない
③関係の証明戸籍で婚姻期間が明確開始時点を資料で立証する

違い①:死亡で関係が終わると、財産分与も相続もない

法律婚の配偶者は、相手が亡くなれば相続人になります(民法第890条)。ところが内縁の配偶者には相続権がありません。そして前述の最高裁判所 決定(平成12年3月10日)は、死亡によって内縁が解消した場合には財産分与の規定を類推適用できないと判断しました。民法は、離婚による清算は財産分与で、死亡による清算は相続で処理するという区別をしている、というのが理由です。

つまり、亡くなった内縁の相手名義の家に何十年住んでいても、遺言がなければ、その家は相手の親族(相続人)のものになります。相続人がいない場合に家庭裁判所へ特別縁故者(亡くなった人と特別に縁が深かった人)として財産の分与を求める道(民法第958条の2)や、借家であれば居住用建物の賃借権を引き継ぐ道(借地借家法第36条)はありますが、いずれも限られた場面の救済です。「事実婚 財産分与 死亡」という疑問が多く寄せられるのは、この落差の大きさが理由だと考えられます。

違い②:配偶者向けの税金の特例が使えない

財産分与で家を渡すと、渡した側に譲渡所得(家を時価で売ったのと同じとみなして計算する所得)の課税が生じ得る点は、法律婚でも事実婚でも同じです。受け取る側については、夫婦で協力して築いた財産の清算として相当な範囲であれば、原則として贈与税はかからないと扱われています。ただし、分与の額が過大な場合や、贈与税を免れるための解消と認められる場合は、贈与税の対象になり得ます。

違いが出るのは特例の場面です。たとえば婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与するときの配偶者控除(相続税法第21条の6)は、法律上の配偶者が対象です。また、自宅を譲渡したときの3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条)は、配偶者や「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」などへの譲渡を適用対象外としています。財産分与の時点で関係がどう評価されるかによって結論が変わり得るため、税額の見込みは必ず税理士にご確認ください。法律婚の場合の税目の整理は財産分与の税金は「渡す側」にかかるにまとめています。

違い③:「いつから夫婦同然だったか」を証明する必要がある

法律婚なら、婚姻期間は戸籍を見れば一目で分かります。事実婚では、関係が始まった日を示す公的な記録が基本的にありません。住民票の続柄に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載していた時期、同居を始めた賃貸借契約書、健康保険の被扶養者認定、親族や知人への紹介状況などを積み上げて、開始時点を立証していくことになります。

この「開始時点」は、単に関係の有無を示すだけではありません。家の財産分与の金額を直接左右する数字になります。次の章で、鑑定士の視点からその理由を説明します。

内縁で家を分けるとき、評価で注意したい点

家の「価値」の出し方は法律婚と同じ

事実婚だからといって、家の評価方法が変わるわけではありません。財産分与で使う価格は、実務上、市場で成立すると見込まれる時価を基準にします。不動産鑑定評価基準でいう正常価格(市場で合理的に成立すると考えられる価格)の考え方がそのまま使えます。戸建てなら土地と建物を、マンションなら取引事例をもとに、法律婚の離婚と同じ手順で評価します。

差が出るのは「どこまでが二人の財産か」の線引き

事実婚で問題になりやすいのは、家を買った時期と、夫婦同然の生活が始まった時期のずれです。同棲を始める前に一方がローンを組んで家を買っていた場合、その家は法律婚でいう「婚姻前に取得した財産」に近い扱いになり、内縁期間中に返済した分に応じた部分だけが分与の対象になる、という整理が考えられます。

このとき、按分の起点になるのが「内縁の開始時点のローン残高」です。開始時点が1年ずれるだけで、起点の残高が変わり、分与の対象になる金額が動きます。按分計算の基本式は「結婚前に買った家だから私のもの」は通るのかで詳しく解説しましたが、事実婚ではその起点の日付そのものが争いになりやすい点が、法律婚と大きく違います。

名義とローンの状態も確認しておく

事実婚のカップルでも、金融機関によってはペアローンや収入合算で住宅ローンを組めるようになっています。その場合は家の持分とローン債務がそれぞれにあり、解消時には「持分をどちらが取るか」と「ローンを誰が返すか」を別々に整理する必要があります。共有持分の評価は、単純に全体の価格を持分割合で割るだけでは決まらない点にも注意が必要です。

想定されるケース──開始時点の主張で分与額はいくら変わるか

前提条件

次のような事案を想定します。数字はいずれも説明のための仮定です。

  • Aさんが単独名義で戸建てを購入(購入価格4,000万円、頭金400万円、借入3,600万円)
  • Aさんが家を買った後、Bさんと同居を始め、住民票に「妻(未届)」と記載
  • 関係の解消時(別居時)のローン残高は2,200万円
  • 現在の家の時価は3,600万円
  • Aさんは「内縁が始まったのは住民票に記載した日から」と主張し、Bさんは「その2年前の同居開始日から」と主張

開始時点ごとの計算

内縁期間中に減ったローン元本を購入価格で割り、その割合を現在の時価に掛けて「二人の財産」とみなす部分を出します。分与割合は2分の1とします。

主張開始時点の残高内縁中の元本返済Bさんへの分与目安
Aさん(記載日)3,000万円800万円360万円
Bさん(同居開始)3,300万円1,100万円495万円

Aさんの主張では、800万円 ÷ 4,000万円 = 20%、3,600万円 × 20% = 720万円が二人の財産で、その2分の1の360万円がBさんへの分与の目安になります。Bさんの主張では、1,100万円 ÷ 4,000万円 = 27.5%、3,600万円 × 27.5% = 990万円、その2分の1の495万円です。

135万円の差は「評価額」と「開始時点」の両方で生まれる

開始時点が2年違うだけで、分与の目安は135万円変わりました。さらに、ここで使った時価3,600万円が3,300万円なのか3,900万円なのかによっても、分与額は1割前後動きます。事実婚の財産分与では、法律婚よりも「日付の立証」と「時価の根拠」の両方が問われる、と言えます。

私たち鑑定士が関われるのは、このうち時価の根拠の部分です。開始時点をどちらとするかは法的な判断であり、弁護士と相談しながら資料を揃えることになりますが、時価については、どちらの主張でも使える客観的な数字を用意しておくことで、話し合いの土台がぶれなくなります。

事実婚の解消で家を分ける前にやっておきたいこと

開始時点を示す資料を集める

住民票の除票や続柄の記載、同居開始時の賃貸借契約書、健康保険や勤務先の家族手当の記録、結婚式や親族への紹介の記録など、関係の開始を示す資料を早めに集めておきます。転居を重ねている場合は取得に手間がかかるため、古い記録ほど早めの取得をおすすめします。

ローン残高を2時点以上で押さえる

金融機関の返済予定表や残高証明書で、家の購入時、内縁の開始時(主張が分かれるならそれぞれの時点)、別居時の残高を確認します。按分の計算は、この残高の差がそのまま基礎になります。

家の時価を根拠のある形で把握する

不動産会社の無料査定は、売却の依頼を受けることを前提にした目安です。相手と金額で折り合わないとき、調停で資料として出したいときは、根拠を説明できる評価書が役に立ちます。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

まとめ

事実婚・内縁でも、生前に関係を解消するのであれば、家は財産分与の対象として分けることを求められるのが一般的な扱いです。ただし法律婚とは、死亡時の扱い・税金の特例・関係の証明という3つの点で大きく違います。

要点を振り返ります。

  • 生前の内縁解消には、離婚の財産分与の規定が類推適用される(最高裁判所 決定 平成12年3月10日)
  • 相手の死亡で関係が終わった場合は、財産分与も相続も原則として認められない
  • 配偶者控除や3,000万円特別控除など、配偶者向けの税の特例は使えない場面がある(税理士にご確認ください)
  • 事実婚では「いつから夫婦同然だったか」の開始時点が、分与の対象範囲と金額を直接左右する
  • 想定ケースでは、開始時点が2年違うだけで分与の目安が135万円変わった
  • 家の評価方法そのものは法律婚と同じで、時価の根拠を揃えておくことが話し合いの土台になる

事実婚・内縁の解消で住んでいた家をどう分けるか悩んでいる方、依頼者の内縁解消事件で不動産の評価が必要になった弁護士の先生は、法的な整理は弁護士と進めつつ、家の価値については客観的な数字を早めに押さえておくことをおすすめします。

内縁・事実婚の解消に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、当事務所の初回無料相談をご利用ください。開始時点ごとの試算に使える時価の整理から、調停に提出できる鑑定評価書の作成まで、ご状況に合わせてご案内いたします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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