財産分与の基礎

二世帯住宅は離婚でどう分けるのか──評価が下がる3つの理由と、親が出したお金の行方

二世帯住宅は市場で売りにくく、単世帯の家と同じ感覚では評価できません。評価が下がる3つの理由、完全分離型・一部共用型・完全同居型で違う出口、そして親が出した建築資金を特有財産として整理する方法を、想定ケースの数字で示します。

著者:吉田 健人·読了 約15
二世帯住宅は離婚でどう分けるのか──評価が下がる3つの理由と、親が出したお金の行方

「建てるときは、親も喜んでくれたんです」。二世帯住宅の財産分与のご相談は、たいていこの一言から始まります。義理の親と同じ屋根の下で暮らし、建築資金の一部も出してもらった。その家を離婚で分けることになったとき、話は単世帯の戸建てより確実に複雑になります。

複雑になる理由は2つあります。ひとつは、二世帯住宅が市場では売りにくい家であり、そのぶん評価額が下がること。もうひとつは、親が出したお金が「誰の財産か」という別の争点を連れてくることです。この2つが重なると、同じ建築費をかけた単世帯の家と比べ、手元に残る金額が数百万円単位で変わります。

私たち鑑定士は、こうした家の価格を扱う立場にあります。この記事では、評価がなぜ下がるのかを分解し、想定されるケースで数字を出し、親の資金をどう整理するかまでをご説明します。断言しますが、二世帯住宅は「単世帯の家の査定額から少し引く」という感覚では扱えません。特有財産の主張が法的に通るかどうかの最終判断は弁護士に、税金の取扱いは税理士にご確認ください。

二世帯住宅の評価が下がる3つの理由

まず、なぜ評価が下がるのかを分けて見ていきます。「二世帯だから安い」という漠然とした話ではなく、下がる原因は3つに整理できます。

理由1:買い手が極端に限られる

中古住宅を探している人のうち、親との同居を前提にしている層はごく一部です。二世帯住宅を「ちょうど欲しかった家」として買える人は、市場全体では少数にとどまります。

不動産の価格は、突き詰めれば「いくらで買う人がどれだけいるか」で決まります。買い手の母数が小さければ成約までの期間が延び、価格を下げる圧力がかかります。私たちが市場性の減価と呼ぶのはこの構造で、建物の造りや立地が悪いという話ではありません。

理由2:間取りが特殊で、転用にコストがかかる

二世帯住宅は、キッチン・浴室・トイレが2セットある造りが一般的です。単世帯として使いたい買い手にとって、この設備は余剰になります。

片方のキッチンを撤去して部屋にする、浴室をつぶして収納にする。こうした工事には内装と設備の復旧まで含めて数百万円がかかることも珍しくなく、買い手はその費用を織り込んで購入価格を考えます。転用工事費の分だけ、売主が受け取れる金額は目減りします。

理由3:延床面積が大きく、総額が上がる

二世帯住宅は単世帯の家より延床面積が大きく、そのぶん建物価格も上がります。土地と合わせた総額が、地域の中古住宅の相場帯を超えてしまうことがあります。

周辺の中古戸建てが3,000万円台で流通している住宅地に、4,500万円の評価になる家があるとします。この価格帯で家を探す層は、その地域にはほとんどいません。総額を相場帯まで下げないと売れない、という状況です。「立派に建てたほうが損をする」という理不尽な現象は、ここから来ています。

型によって、下がり方は違う

造りによって、市場での扱われ方は変わります。評価の前提を決めるために、まず自宅がどの型かを確認してください。

3つの型と、それぞれの弱点

内部の行き来市場での売りやすさ分与での主な論点
完全分離型できない(玄関・水回りが別)賃貸併用として売れる余地あり登記が区分か、賃料が取れるか
一部共用型一部できる(玄関や浴室が共用)買い手が最も限られる転用工事費をどう見込むか
完全同居型自由(寝室のみ別)大きな戸建てとして売れる面積過大による総額の割高感

完全分離型には、別の出口がある

意外に思われるかもしれませんが、完全分離型は3つのなかで最も出口が広い型です。玄関も水回りも独立しているため、片方を賃貸に出せるからです。不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、建物及びその敷地の価格について、積算価格と比準価格を、必要に応じて収益価格も関連づけて決定すべきことを定めています。片方に賃料が見込めるなら、収益の側面から価格を支える根拠が立ちます。

区分登記されているかを必ず確認してください

完全分離型では、1棟の建物を2戸として登記する区分登記の形が取られている場合があります。この場合、建物は法律上2つの不動産であり、それぞれに所有者がいます。

夫婦の持分がどちらの戸に付いているのか、親名義の戸はどれか。ここを確認しないまま「家の価値は4,000万円」と話を進めると、実は分与の対象は片方の戸だけだった、という事態になります。登記事項証明書は最初に取り寄せてください。区分登記かどうかは相続税の小規模宅地等の特例にも関わるため、将来の相続まで見据えるなら税理士にご確認ください。

数字で見る──想定されるケース

ここから具体的な数字で見ていきます。実在の案件ではなく、ご相談で多い形を抽象化した想定ケースです。

前提条件

郊外の住宅地に建つ一部共用型の二世帯住宅を考えます。

  • 土地:132平方メートルを2,400万円で購入(婚姻中に取得)
  • 建物:木造2階建て、延床149平方メートル、建築費3,600万円、現在築12年
  • 取得時の総額は6,000万円。うち600万円を夫の親が援助
  • 住宅ローン残債:2,000万円(名義は夫)
  • 土地・建物ともに夫名義

まず、単世帯の家として積算する

建物の価格は、同じ建物を今建て直すといくらかかるか(再調達原価)を求め、経過年数に応じた減価を差し引いて求めます。ここでは木造住宅の法定耐用年数22年を目安に経過12年分を減価し、3,600万円のうち残る額をおよそ1,600万円とします。土地2,400万円と合わせ、積算価格は4,000万円です。なお法定耐用年数は税務上の区分であり、鑑定実務では建物の実際の状態を見た経済的残存年数で判断します。

二世帯住宅としての減価を反映する

ここから、3つの理由による市場性の減価を反映します。一部共用型で転用工事費が見込まれ、総額も地域の相場帯を超えるケースとして15パーセントの減価を織り込むと、

4,000万円 × 0.85 = 3,400万円

これが分与の出発点となる評価額です。単世帯前提との差は600万円。純資産(評価額からローン残債を引いた額)を折半するなら、代償金(財産を多く取得する側が、もう一方へ支払う調整金)では300万円の差になります。

減価率はあくまでこの想定での数字です。実際には、地域の中古住宅の流通価格帯・同種事例の有無・転用工事の見積り額を調べたうえで判断します。査定書に「二世帯なので低め」とだけ書かれ根拠が示されていないなら、その数字は検証に耐えません。

親が出した600万円を反映する

次に、親の資金援助を織り込みます。民法第762条第1項は、夫婦の一方が婚姻前から有する財産および婚姻中に自己の名で得た財産を特有財産とすると定めています。夫の親から夫への贈与であれば、その600万円は夫の特有財産にあたると主張する余地があります。

実務でよく使われるのが、取得時の総額に占める援助額の割合を、現在の評価額に当てはめる考え方です。取得時の総額6,000万円に対して600万円は10パーセント。評価額3,400万円にこの割合を掛けると、340万円が夫の特有分にあたります。

  • 評価額 3,400万円 − ローン残債 2,000万円 = 純資産 1,400万円
  • 純資産から夫の特有分 340万円を控除 = 1,060万円
  • 折半すると、妻が受け取る代償金は 530万円

特有財産の主張が通らなかった場合、妻の受取額は1,400万円の半分で700万円です。その差は170万円。親が出した600万円の扱いひとつで、結論はこれだけ動きます。

按分の方法には複数の考え方があり、どれが採用されるかは事案によります。この論点は「頭金は私の貯金から出した」は財産分与で考慮されるのかで詳しく整理しています。

親が出したお金を「特有財産」と言うために

数字が示すとおり、ここは金額への影響が大きい争点です。では、何を用意すればよいのでしょうか。

贈与か、貸付か、出資か

まず、親が出したお金の性格を確定させます。

  • 贈与であれば、贈与を受けた側(多くは実子側)の特有財産として主張する土台になります
  • 貸付であれば、それは夫婦が親に対して負う債務であり、分与の計算では負債として扱う整理が考えられます
  • 出資として親の持分を登記に反映しているなら、その持分はそもそも夫婦の財産ではありません

同じ600万円でも、この3つで結論はまったく違います。ところが実際のご相談では、「なんとなく出してもらっただけで書面は何もない」という状態が大半です。

残っている記録を探す

書面がなくても諦める必要はありません。私たちが依頼者にお願いしているのは、次の確認です。

  • 親の口座から建築会社または夫婦の口座へ振り込まれた記録(通帳・取引明細)
  • 建築請負契約書と、支払いのスケジュール表
  • 贈与税申告書の控え(住宅取得等資金の非課税制度を使っていた場合)
  • 登記事項証明書(親の持分が入っていないかの確認)

とくに贈与税の申告書が残っていれば、贈与であったことを示す強い材料になります。制度の適用可否は税理士にご確認ください。

なお、双方の親が資金を出しているなら、それぞれの特有分を認定して残りを分ける整理になり、金額が近ければ相殺されます。相手方が特有財産を主張してきたときは、こちらの資金も同じ基準で洗い出してください。片方だけが記録を用意している状態が、最も不利です。

土地が親名義のときは、話が変わります

ここまでは土地・建物とも夫婦名義の前提で書いてきました。土地が親名義の場合は、別の論点が加わります。

使用貸借の上の建物は、市場で売れません

親の土地に子が家を建てる形では、地代を払わない使用貸借(民法第593条。無償で借りて、終了時に返す契約)が大半です。この状態の建物を第三者に売ることは、現実にはできません。土地を使う権利が買主に引き継がれる保証がないからです。

売れない建物にも、住み続ける当事者にとっての利用価値はあります。市場価値と利用価値は別物で、どちらを前提に置くかで金額は変わります。この類型は、評価の前提条件の設計が作業の半分を占めます。詳しくは親の土地に建てた家の離婚──土地は対象外、では建物は?をご覧ください。

争点は「いくらか」だけに絞られます

離婚後、義理の親の土地の上に建つ建物を出ていく側が取得しても、使い道はありません。このため実子側が建物を取得して代償金を支払う形に落ち着き、争点は金額だけになります。

出口は3つ。ただし選べるのは実質2つ

財産分与の分け方は現物分与・代償分与・換価分与の3つで、この点は家の分け方は3つしかない──現物分与・代償分与・換価分与にまとめています。二世帯住宅では、この3つの使い勝手が単世帯の家とは違います。

実子側が取得し、代償金を払う(最も多い形)

親が同居している以上、実子側が家に残る形が自然です。注意点は、代償金を払う側に資金力が必要なことです。先ほどの想定ケースなら530万円から700万円。ローンの借り換えで工面するなら、審査は実子側の収入だけで行われます。親の同居を理由に収入合算ができるとは限りません。

売却して分ける(できるとは限らない)

売って現金で分ければ評価の争いは消えます。しかし二世帯住宅では、この選択肢が使えないことがあります。

  • 親が住んでいる以上、親の同意と転居先がなければ売りに出せない
  • 買い手が限られるため、成約まで半年以上かかることがある
  • 土地が親名義なら、そもそも建物だけでは売れない

売却を選ぶなら、「6か月で成約しなければ売出価格を見直す」「1年で決まらなければ代償分与へ切り替える」といった期限を先に決めてください。期限のない売却活動は、離婚そのものを止め続けます。

共有のまま残す(原則として避けるべきです)

「とりあえず共有のままにして、あとで考える」。この選択が最も危険です。

共有者は民法第256条第1項により、いつでも共有物の分割を請求できます。元配偶者が数年後に分割請求をしてくれば、裁判所の手続きに引き込まれます。加えて共有のままでは、売却もリフォームも相手の同意なしにできません。親が同居している家で、元配偶者に同意を求め続ける状態を想像してみてください。二世帯住宅こそ、共有のまま残してはいけない類型です。

まとめ

二世帯住宅の財産分与は、単世帯の家の延長線上にはありません。評価が下がる構造と、親の資金という争点を、それぞれ数字で押さえることが出発点です。要点を振り返ります。

  • 評価が下がる理由は、買い手の少なさ・転用工事費・総額の割高感の3つに整理できる
  • 完全分離型は賃貸併用として出口が広く、一部共用型が最も売りにくい
  • 区分登記なら分与の対象は建物の片方だけかもしれない。登記事項証明書を最初に取る
  • 想定ケースでは、15パーセントの市場性減価が代償金で300万円の差を生んだ
  • 親の資金600万円を特有財産と認定できるかどうかで、代償金は530万円と700万円に分かれた。裏づけは通帳・請負契約書・贈与税申告書の控え
  • 共有のまま残す選択は、民法第256条第1項の分割請求リスクを将来に残す

親と同居している家を離婚で分けることになった方、二世帯住宅の事案を抱えておられる弁護士の先生へ。この類型でまず必要なのは、相手を説得する材料ではなく評価の前提を固めることです。どの型か、登記はどうなっているか、親の資金はいくらでどの性格か。この3つが決まれば、評価額は根拠のある数字として出せます。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。二世帯住宅の市場性減価をどう見込むか、相手方の査定額が妥当かという段階のご相談でも構いません。協議の材料として使う価格等調査報告書(不動産鑑定士が調査のうえ価格を示す報告書で、鑑定評価書より調査範囲や記載事項を限定したもの。10万円から15万円程度、税別)と、調停・審判まで見据えた鑑定評価書(20万円から60万円程度、税別)のどちらが適しているかも、あわせて整理します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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