「離婚したから関係ない」は通らない──連帯保証人・連帯債務から抜ける3つの道と成立難易度

「離婚届を出せば連帯保証人から外れる」は誤りです。離婚協議書は契約当事者でない銀行には対抗できません。抜けるための借換え・売却・保証人の交替という3つの手段を難易度つきで比較し、残債が同じでも家の時価次第で結論が変わる仕組みを、想定されるケースで示します。

著者:吉田 健人·読了 約12
「離婚したから関係ない」は通らない──連帯保証人・連帯債務から抜ける3つの道と成立難易度

「離婚届を出せば、夫のローンの連帯保証人からも外れますよね」。ご相談の場で、これに近いお話をうかがうことがあります。離婚協議書に「本件住宅ローンは夫が責任をもって返済する」と書いてあるから安心だ、とおっしゃる方もいらっしゃいます。

残念ながら、どちらも銀行には通りません。断言します。あなたが署名したのは銀行との契約であり、離婚は夫婦の間の出来事です。夫婦の間で取り決めをしても、契約の相手方である銀行の権利はそのまま残ります。数年後、元配偶者の返済が滞った瞬間に、請求書はあなたのもとへ届きます。

私たち鑑定士は法律の専門家ではありませんが、この論点は不動産の価値と切り離せません。連帯保証から抜けるための手段は、どれも最後は「その家にいくらの価値があるか」で成否が分かれるからです。この記事では、なぜ離婚では抜けられないのかを整理したうえで、抜けるための3つの現実的な手段を、成立の難易度つきで比較します。

離婚協議書は、銀行に対して効きません

連帯保証人と連帯債務者は、そもそも別のもの

まず、ご自身がどの立場なのかを確認してください。混同されがちですが、責任の性質が違います。

連帯保証人は、主債務者(実際にお金を借りた人)が返せなくなったときに、代わりに全額を返す義務を負う人です。民法第446条以下に定めがあり、連帯保証の場合は「まず主債務者に請求してください」と言う権利(催告の抗弁権)がありません。銀行はいきなりあなたに全額を請求できます。

連帯債務者は、はじめから自分自身が借主の一人である人です。民法第436条により、債権者は連帯債務者の誰に対しても、いつでも全額を請求できます。夫婦で1本のローンを組み、収入を合算して借りた場合によく見られる形です。

ペアローンは、夫婦がそれぞれ別のローンを組み、互いに相手のローンの連帯保証人になる形です。この場合は2本の契約それぞれについて、上の整理が二重にかかります。詳しくはペアローンの家は離婚でどう分けるのか──名義・債務・評価の三重の整理をご覧ください。

いずれの立場でも、結論は同じです。離婚によって自動的に外れる仕組みは、どれにもありません。

「妻が住み続け、夫が払う」という合意も同じ

離婚協議書や調停調書に返済の分担を書き込むこと自体には、意味があります。約束を破られたときに、元配偶者に対して請求する根拠になるからです。

ただし、その効力が及ぶのは元配偶者との間だけです。銀行はその協議に参加していません。契約の当事者でない第三者の取り決めによって、銀行の債権が縮むことはないのです。ここを取り違えると、「書面にしたから大丈夫」という誤った安心のまま、10年、20年とリスクを抱え続けることになります。

債務者を入れ替えるには、銀行の承諾が要る

法律上、債務者を交替させる仕組みはあります。免責的債務引受(もとの債務者が債務を免れ、引受人が同じ内容の債務を負う仕組み)です。民法第472条第3項は、債務者と引受人が契約し、債権者がこれを承諾することによって成立すると定めています。

つまり、銀行の承諾が要件です。銀行からすれば、審査して貸した相手が勝手に入れ替わるのは困りますから、当然の話です。そして銀行が承諾するかどうかの判断材料は、新しい債務者の返済能力と、担保となる不動産の価値。この2つに尽きます。

なお、離婚に伴う財産分与や名義変更の税務上の取扱いについては、税理士にご確認ください。

抜けるための3つの手段と、その成立難易度

手段1:住み続ける側の単独ローンに借り換える

最も王道の方法です。家を取得して住み続ける側が、自分の収入と信用だけで新しいローンを組み、それで既存のローンを完済します。もとの契約が消えるので、連帯保証も連帯債務も同時に消滅します。

成立のカギは2つ。住み続ける側の単独の年収で返済負担率(年収に占める年間返済額の割合。金融機関ごとに上限が設けられています)が収まること、そして物件の担保評価が借入希望額に届くことです。手続きの順序については離婚とローン借り換え──「家をもらう側」が先に銀行へ行くべき理由で詳しく整理しています。

手段2:売却して完済する

家を売り、その代金でローンを完済してしまえば、債務そのものが消えます。連帯保証の問題も根本から解決します。

ただし、売却代金が残債を下回るオーバーローンの状態では、不足分を現金で用意できない限り、通常の売却はできません。この場合の選択肢についてはオーバーローンの家を離婚で売るとき──任意売却という言葉が出てきたらをご覧ください。

手段3:代わりの保証人を立てる、または担保を追加する

銀行に対し、自分に代わる連帯保証人を提示する、あるいは別の不動産を追加担保として差し入れる方法です。

現実には、最も成立しにくい手段です。あなたと同等以上の資力を持つ人が、離婚後の元配偶者のローンの保証人になることを引き受けてくれる、という状況はそう多くありません。追加担保も、差し入れられる不動産を持っている方に限られます。可能性としては存在しますが、期待して待つ性質のものではないとお考えください。

3つの手段を並べて比較する

手段成立のカギ必要なもの難易度
借換え単独の返済能力と担保評価住み続ける側の安定収入
売却して完済売却価格が残債を上回ること物件の時価低〜中
保証人の交替・追加担保銀行の個別承諾代替の人的・物的担保

共通しているのは、3つとも「その家の価値がいくらか」が判断の中心にあることです。借換えなら担保評価、売却なら成約見込み価格、追加担保なら差し入れる物件の評価。どの道を選んでも、価値の把握から逃げられません。

想定されるケース──同じ手取りでも、価値次第で結論が変わる

以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。

前提

夫が主債務者、妻が連帯保証人となっている木造戸建て。ローン残高は2,800万円、残り期間25年。協議の結果、妻が家を出て夫が住み続けることになり、妻は連帯保証から外れたいと考えています。夫は単独で借換えを申し込む方針です。

時価が残債を上回るケースと、下回るケース

項目ケースAケースB
自宅の時価3,200万円2,400万円
ローン残高2,800万円2,800万円
担保の過不足400万円の余裕400万円の不足
借換えの見通し収入要件を満たせば可能性あり不足分の現金なしでは困難

夫の収入も、残債も、まったく同じです。違うのは家の価値だけ。それだけで、妻が連帯保証から抜けられるかどうかが分かれます。

ケースBで借換えが通らなければ、妻に残る道は売却か、抜けられないまま離婚するかの二択に狭まります。そして2,400万円で売っても400万円の不足が生じますから、売却も簡単ではありません。「まず家がいくらか」を知らずに協議を進めることの怖さが、ここに表れています。

数字を知る順序を間違えない

ケースAとケースBのどちらに自分が立っているのかは、時価を調べなければ分かりません。にもかかわらず、多くの方は協議の内容を先に固め、そのあとで銀行に行き、そこで初めて見通しを知ります。

順序が逆です。時価と残債の関係を先に把握し、実現可能な選択肢だけをテーブルに載せる。これが、やり直しの効かない協議を進めるうえでの原則だと私たちは考えています。

抜けられないまま離婚するときに、備えておくこと

求償権と、協議書に書いておく意味

どうしても抜けられない場合もあります。そのときでも、離婚協議書に返済の分担と、あなたが代わりに支払った場合の取り決めを明記しておくことには意味があります。

連帯保証人が主債務者に代わって支払った場合、支払った分を主債務者に請求できる権利(求償権)が民法上認められています。連帯債務者の間にも、民法第442条により求償の仕組みがあります。もっとも、権利があることと、実際に回収できることは別の問題です。どのような条項を置くべきか、公正証書にする意味があるかどうかは、弁護士にご確認ください。

残債と時価の関係を、定期的に見直す

抜けられなかった場合でも、状況は固定されません。ローン返済が進めば残債は減り、市況が動けば時価も変わります。ケースBのような担保不足の状態が、数年後には解消していることもあります。

残債が時価を下回った時点で、借換えや売却という手段が現実味を帯びます。そのタイミングを逃さないために、数年に一度は両方の数字を確認しておくことをおすすめします。

私たち鑑定士がお手伝いできること

銀行に行く前に、根拠のある時価を持っておく

担保評価は銀行が独自に行いますから、私たちの評価がそのまま採用されるわけではありません。それでも、根拠のある時価資料を持って相談に行くことには意味があります。借換えが成り立つ水準にあるのか、それとも不足分の手当てから考える必要があるのか。相談の出発点が変わるからです。

また、財産分与の協議で相手方と価値の認識がずれている場合、仲介会社の無料査定を何枚集めても決着しないことがあります。査定は売却の見込みを示す営業上の資料であり、根拠の説明を目的とした書面ではありません。

費用と成果物の目安

当事務所では、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価書は20万円から60万円、基準に則らない価格等調査報告書は10万円から15万円(いずれも税別)を目安としています。セカンドオピニオンは5万円から承っています。着手前に金額と納期を書面でお示ししますので、どの成果物が目的に見合うかを含めてご相談ください。

まとめ

離婚は、銀行との契約には何の影響も与えません。連帯保証人・連帯債務者の立場は、離婚届でも協議書でも消えないのです。

要点を振り返ります。

  • 連帯保証人は民法第446条以下、連帯債務者は民法第436条に基づく責任を負い、いずれも離婚によって自動的には外れない
  • 離婚協議書の返済分担は元配偶者に対しては効力を持つが、契約当事者でない銀行には対抗できない
  • 債務者を入れ替える免責的債務引受は、民法第472条第3項により債権者(銀行)の承諾が要件となる
  • 抜けるための現実的な手段は、借換え・売却して完済・保証人の交替や追加担保の3つ。最後の手段は成立が最も難しい
  • 想定されるケースでは、夫の収入も残債も同じでありながら、時価3,200万円と2,400万円の違いだけで借換えの見通しが分かれた
  • 抜けられない場合も、求償権に関する取り決めを協議書に置き、残債と時価の関係を定期的に見直しておくことで、後から手段が開ける

配偶者のローンの連帯保証人になっている方、収入合算で連帯債務者になっている方、そして依頼者を保証の鎖から解放したい弁護士の先生。最初に必要なのは、法律論より前に「その家はいくらか」という数字です。そこが決まらなければ、どの手段が現実的かも決まりません。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。残債と時価の関係をうかがったうえで、借換えを見据えた評価が必要な事案か、売却の判断材料をお示しすべき事案かを含めてご案内します。お見積りは無料です。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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