3,000万円特別控除は離婚の前後で結論が変わる──共有名義なら最大6,000万円の差

離婚で自宅を売ったときの3,000万円特別控除は、婚姻中に配偶者へ渡すと使えず、離婚成立後に元配偶者へ渡すか第三者へ売れば使えます。住まなくなってから3年の期限、共有名義なら枠が最大6,000万円になる仕組みを整理し、3つのタイミングで税額を試算しました。

著者:吉田 健人·読了 約14
3,000万円特別控除は離婚の前後で結論が変わる──共有名義なら最大6,000万円の差

離婚に伴って自宅を売ることが決まると、次に出てくるのは「売った利益に税金はいくらかかるのか」という問いです。そして調べ始めた方はほぼ必ず「3,000万円特別控除」にたどり着きます。マイホームを売ったときの利益から最高3,000万円を差し引ける制度です。

この控除が使えれば、多くのご家庭では税額がゼロになります。使えなければ、同じ売却で数百万円を納めることになります。ところが、その分かれ目は「いくらで売れたか」ではなく、離婚届を出す前なのか後なのか、家をいつ出たのか、名義が誰なのかという、税金とは無関係に見える事情で決まります。

私たち鑑定士は税額を計算する立場ではありません。それでも説明を避けられないのは、控除の枠に収まるかどうかの判定が「時価」と「取得費」という2つの数字の上に乗っているからです。この記事では、離婚で3,000万円特別控除が使える場合と使えない場合を整理し、想定されるケースで税額を比べます。実際の適用可否と税額は必ず税理士にご確認ください。

3,000万円特別控除とは、何がいくら減る制度なのか

差し引かれるのは「売却代金」ではなく「利益」

3,000万円が引かれるのは売却代金ではなく、売却によって出た利益(譲渡所得)からです。計算式は次のとおりです。

課税譲渡所得 = 売却価格 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除(最高3,000万円)

取得費は購入代金から建物の減価償却相当額を差し引いた金額、譲渡費用は仲介手数料や印紙代などです。5,000万円で売れても3,000万円で買った家なら利益は2,000万円前後で、控除の枠3,000万円は感覚よりずっと広いといえます。根拠は租税特別措置法第35条第1項です(国税庁タックスアンサーNo.3302)。

使えたときと使えなかったときの差

税率は、売った年の1月1日時点の所有期間で変わります。復興特別所得税と住民税を含めた合計税率は次のとおりです。

所有期間(譲渡年1月1日時点)区分合計税率
5年以下短期譲渡所得39.63%
5年超長期譲渡所得20.315%
10年超(6,000万円以下の部分)軽減税率14.21%

利益が2,000万円出たとして、控除が使えれば税額はゼロ。使えなければ、長期譲渡で約406万円、短期譲渡なら約793万円です。一件の手続きの順序で、この金額が動きます。

10年超の軽減税率とは併用できる

所有期間が10年を超えるマイホームには、さらに税率を下げる特例があります(租税特別措置法第31条の3)。これは3,000万円特別控除と併用できます(同No.3305)。利益から3,000万円を引いたうえで、残った部分に14.21%をかけられる、という順序です。

離婚成立前に渡すと使えない──「特別の関係がある人」の壁

配偶者への譲渡は対象外

この特例には「特別の関係がある人への譲渡には適用しない」という要件があります。ここでいう特別の関係がある人には、配偶者と直系血族、生計を一にする親族、譲渡後もその家屋に同居する親族、内縁関係にある人などが含まれます(同No.3302)。

配偶者が明記されている以上、結論は単純です。婚姻届が出ている状態で夫から妻へ、あるいは妻から夫へ自宅を渡しても、3,000万円特別控除は使えません。しかも婚姻中の夫婦間の財産移転は財産分与ではなく贈与として扱われるため、受け取った側に贈与税の問題も生じます。この点は財産分与の税金は「渡す側」にかかるで整理しました。

離婚後の元配偶者なら原則として使える

離婚が成立すれば、相手はもはや配偶者ではありません。直系血族でも生計を一にする親族でもないため、元配偶者への譲渡には原則としてこの控除を適用できます。離婚届の提出が先、名義移転が後、という順序です。

相手の気が変わらないうちに名義を移しておきたい、という気持ちはよく分かります。それでも、離婚届より先に登記を動かすと控除を失うという一点だけは、動く前に確認してください。

離婚後も同居を続けている場合は要注意

離婚届は出したものの、子どもの学校の都合などで当面は同じ家に住み続けるケースがあります。「特別の関係がある人」には内縁関係にある人が含まれるため、実態として同居が続いていると、形式的に離婚していても適用が否認される余地があります。事実認定の問題ですので、該当しそうな方は事前に税理士にご確認ください。

「住まなくなってから3年」という時限

起算は住まなくなった日、期限は3年後の年末

すでに住んでいない家についても、この控除は使えます。ただし期限があります。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することが要件です(同No.3302)。

たとえば2026年5月に家を出たなら、3年を経過する日は2029年5月、その年の12月31日が期限です。感覚より長く取れますが、離婚協議が長引けば十分に射程に入ります。別居から時間が経っている方は、家を出た日を今すぐ確認してください。

別居では「転勤の例外」は使えない

所有者本人が住んでいなくても控除が認められる例外があります。転勤や転地療養で配偶者や子どもだけが住んでいる家屋で、事情が解消したら本人が戻って同居すると認められる場合です(同No.3317)。

離婚を前提とした別居は、この例外に当たりません。事情が解消したら戻って同居する、という前提が成り立たないからです。家を出た側にとって、別居開始の日は3年カウントの起点になると考えておくべきです。逆に、家に住み続けている側が名義人であれば居住中の家屋の譲渡となり、この時限は問題になりません。名義人がどちらで、どちらが家を出たのか。この組み合わせで期限の意味が変わります。なお、古家を取り壊して更地で売る場合は、取壊しから1年以内の契約締結なども要件に加わります(同No.3302)。

共有名義なら控除枠は2人分になる

1人につき最高3,000万円

ここが離婚の場面でもっとも効いてくる論点です。共有のマイホームを売ったときの特別控除額は、共有者全員で3,000万円ではなく、適用を受けられる共有者1人につき最高3,000万円です(同No.3308)。夫婦が2分の1ずつ持っていれば、枠は合計6,000万円になります。

購入時から大きく値上がりした物件では、この差が決定的です。単独名義のまま売れば枠は3,000万円、共有のまま売れば6,000万円。同じ家、同じ売却価格でも、名義の形で税額が変わります。

家屋を共有していないと使えない

注意点もあります。家屋は夫の単独名義で、土地だけを夫婦共有にしている登記はしばしば見られます。この場合、家屋を所有していない側は原則としてこの特例を使えません(同No.3308)。枠が2人分になるのは家屋の持分を両方が持っているときです。登記事項証明書で土地と建物それぞれの持分を確認してください。

「分与してから売る」と枠は増えない

では、単独名義の家を離婚後にいったん持分の半分だけ相手へ分与し、共有にしてから売れば枠が2人分になるのか。分与を受けた側の所有期間はその時点から始まるため軽減税率の10年超要件を満たさず、そもそも分与の時点で渡す側に譲渡所得が発生します。意味があるのはもともと共有だった家を共有のまま売ることであって、後から共有をつくることではありません。分け方そのものの選択は家の分け方は3つしかないをご覧ください。

3つのタイミングで税額を試算する

以下は想定されるケースとして数字を置いたものです。前提は、売却価格5,000万円、譲渡費用180万円、所有期間は譲渡年1月1日時点で12年、夫婦とも婚姻期間中は居住していた、とします。

ケース1:離婚成立後、共有のまま第三者へ売る

購入時の売買契約書が見つからない場合、取得費は売却価格の5%とみなす概算取得費になります。5,000万円の5%で250万円。譲渡益は 5,000万円 − 250万円 − 180万円 = 4,570万円です。夫婦が2分の1ずつ持っていれば、各人の譲渡益は2,285万円です。それぞれが3,000万円特別控除を使えるため、課税譲渡所得はゼロ。二人とも税額ゼロです。売却代金からローン残債を返し、残りを分けることになります。

ケース2:離婚成立後、夫の単独名義のまま売る

名義が夫の単独だった場合、譲渡益4,570万円のすべてが夫に帰属します。3,000万円を控除しても1,570万円が残り、10年超の軽減税率14.21%をかけると税額は約223万円。所有期間が10年以下なら20.315%で約319万円です。

ケース1との差は、売却価格でも利益の額でもなく、登記上の持分がどうなっていたかだけです。なお、購入時の契約書が見つかって取得費が2,600万円だと確認できれば、譲渡益は2,220万円となり、枠内に収まって税額はゼロです。契約書を探す価値はこの一点にあります。

ケース3:離婚成立前に、夫から妻へ渡す

取得費2,600万円が確認できたとして、離婚届を出す前に夫から妻へ自宅を渡した場合を考えます。第三者への売買ではないため仲介手数料は生じず、譲渡益は 時価5,000万円 − 2,600万円 = 2,400万円。配偶者への譲渡なので3,000万円特別控除は使えず、10年超の軽減税率も同じ理由で使えません。長期譲渡所得の20.315%をかけると、約488万円です。

しかも夫の手元には現金が一円も入りません。財産分与による移転は時価で売ったものとみなされるだけで、代金の入金はないからです。納税資金を別に用意する必要があり、さらに妻の側には贈与税の問題も残ります。ケース1がゼロ、ケース3が約488万円。離婚届の前か後かだけで、この差が出ます。

見落とされやすい落とし穴と、控除の枠に収まるかの判定

住宅ローン控除とは同時に使えない

自宅を売って新居を買う方が見落としがちな点です。新居に入居した年、その前年または前々年に3,000万円特別控除の適用を受けていると、新居で住宅ローン控除を使えません(同No.3302)。売却で節税するか、新居のローン控除を取るかの選択になります。関連論点は離婚すると住宅ローン控除はどうなるのかもご覧ください。どちらが有利かは金額次第ですので、税理士にご確認ください。

前年・前々年に使っていると適用できない

この控除は、売った年の前年および前々年に同じ特例やマイホーム譲渡損失の特例を受けていると使えません。また、適用を受けるには確定申告が必要で、共有の場合は共有者それぞれが申告書を提出します(同No.3308)。自動的に適用されるものではありません。

枠に収まるかは「時価」と「取得費」で決まる

ここまでの計算を決めているのは、売却価格(あるいは分与時の時価)と取得費の差です。第三者へ売るなら実際の成約価格が使えますが、財産分与で相手に渡す場合の収入金額は分与時の時価です。売買が存在しない以上、時価は別途認定するほかありません。実務ではその根拠が不動産会社の無料査定書1通ということが少なくありませんが、査定額は売却の見込み価格であり、業者ごとに幅が出ます。控除が使えず税額が発生する事案では、時価の認定根拠が後から問われます。

私たち鑑定士にできるのは、価格時点を明示したうえで、その日の時価を根拠のある手順で示すことです。当事務所では、話し合いの土台をつくる価格等調査報告書を10万円〜15万円、調停・訴訟や税務対応まで見据えた鑑定評価書を20万円〜60万円(いずれも税別)で承っています。相手方の資料の検証だけなら5万円〜のセカンドオピニオンもご利用いただけます。

まとめ

3,000万円特別控除は、離婚に伴う自宅売却でもっとも金額の大きい分岐点です。その分岐は、離婚届と登記の順序、家を出た日付、登記上の持分という事実で決まります。要点を振り返ります。

  • 控除されるのは売却代金ではなく譲渡益。3,000万円の枠は感覚より広い
  • 配偶者は「特別の関係がある人」に当たるため、離婚成立前に渡すと控除も10年超の軽減税率も使えない
  • 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限。離婚前提の別居に「転勤の例外」は使えない
  • 共有名義なら1人につき3,000万円、合計で最大6,000万円の枠になる。ただし家屋の持分が必要
  • 購入時の売買契約書が見つからないと概算取得費5%となり、譲渡益が大きく出る
  • 新居の住宅ローン控除とは同時に使えない場面がある。適用には確定申告が必要

自宅を売って清算しようとしている当事者の方、依頼者の分け方を設計される弁護士の先生にとって、この控除は「分け方を決めたあとに調べるもの」ではありません。決める前に順序と名義を確認しておく論点です。なお本記事は制度の一般的な整理であり、実際の適用可否や税額は必ず税理士にご確認ください。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。売却か分与か、どちらの道でも土台になる「時価」の見立てからお答えします。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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