築25年の戸建て、建物の価値は本当にゼロなのか──「木造22年」の正体
「木造は22年で価値ゼロ」の根拠は、税法が償却のために定めた法定耐用年数にすぎません。国土交通省は平成26年、一律に築20〜25年で建物をゼロとする慣行の是正を求めました。鑑定が見るのは経過年数ではなく経済的残存耐用年数です。内訳が分与額を動かす場面を整理します。

「築25年の木造なので、建物の値段はつきません。土地だけの評価になります」。不動産会社からそう説明され、そのまま受け入れてしまう方がいらっしゃいます。財産分与の話し合いの場で、相手方から同じ説明が出てくることもあります。
インターネットで調べれば、根拠らしきものはすぐに見つかります。「木造住宅の耐用年数は22年」。だから25年経った家はゼロ円だ、という説明です。一見すると筋が通っているように読めます。
しかし、この22年という数字は、あなたの家がいくらで売れるかを決めるために作られた数字ではありません。まったく別の目的のために、税法が定めた年数です。私たち鑑定士は、建物の価値をこれとは異なる考え方で査定します。そして離婚の財産分与では、土地と建物の内訳をどう置くかが、受け取れる金額そのものを動かす場面があります。この記事では、22年という数字の正体を明らかにしたうえで、内訳が争点になる場面と、建物に価値を主張するために揃えるべき資料を整理します。
「木造22年でゼロ」という数字の正体
22年は、税務上の償却のための年数です
まず結論から申し上げます。木造住宅の22年という年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一が定める法定耐用年数です。事業用の建物を所有する人が、取得にかかった費用を何年かけて経費に配分するかを決めるための年数にすぎません。
同じ表では、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年、軽量鉄骨造は骨格材の厚さに応じて19年から34年と定められています。これらはいずれも、課税所得を計算するための共通のものさしです。全国どこの、どんな管理状態の建物にも一律に当てはめることを前提に作られています。
そこに、その家が実際に何年住めるかという観点は入っていません。断言します。法定耐用年数を過ぎたことと、建物の市場価値がゼロになることは、まったく別の話です。
一律にゼロとする慣行は、国が名指しで問題視しました
この点は、私たち鑑定士が独自に主張していることではありません。国土交通省が公式に指摘しています。
国土交通省は平成26年3月、土地・建設産業局不動産業課と住宅局住宅政策課の連名で「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を公表しました。その問題意識は明快です。取引の現場では、個別の住宅の状態にかかわらず一律に築後20年から25年で建物の市場価値をゼロとみなす慣行があり、それが中古住宅の流通を妨げているというものです。
指針が示した改善の考え方も具体的です。住宅を基礎・躯体と内外装・設備に分けて捉え、基礎・躯体については性能に応じて20年より長い耐用年数を設定することを認めました。長期優良住宅であれば100年を超える耐用年数も許容されます。さらに、基礎・躯体の機能が維持されている限り、リフォームによって住宅の価値は回復・向上するものとして評価に反映すべきだとしています。
つまり「築25年だから建物ゼロ」という説明は、10年以上前に国が是正を求めた慣行そのものなのです。
査定書に「建物0円」と書かれる理由
それでもなお、不動産会社の査定書に建物0円と記載されることは珍しくありません。仲介の現場では、中古戸建てを土地値で売り出すほうが早く成約しやすいという事情があり、査定はその売り出し方針を前提に組み立てられているからです。
売却を前提にした査定としては、それは一つの合理的な判断です。問題は、その数字を財産分与の話し合いにそのまま持ち込むと、内訳が争点になる場面で不利に働くことがある点にあります。無料査定の性質については離婚時の「無料査定」の正しい使い方──タダには理由があるでも整理しています。
鑑定評価では、建物をどう見るのか
原価法──再調達原価から減価を差し引く
建物の価値を求める代表的な手法が原価法です。いま同じ建物を新築するとしたらいくらかかるか(再調達原価)を求め、そこから時の経過や劣化による価値の減少分(減価額)を差し引いて価格を導きます。
再調達原価は、建築費に関する統計や実際の工事費の資料をもとに、構造・グレード・延床面積から査定します。ここまでは機械的な作業に近いと言えます。判断が分かれるのは、次の減価修正です。
経過年数よりも、経済的残存耐用年数
不動産鑑定評価基準は、減価修正の方法として耐用年数に基づく方法と観察減価法の二つを挙げ、それぞれに長所と短所があるため両者を併用して減価額を求めるべきだとしています。
そして、耐用年数に基づく方法を用いる場合について、基準は重要な指示を置いています。経過年数よりも経済的残存耐用年数に重点をおいて判断すべきである、というものです。
経済的残存耐用年数とは、その建物が経済的に価値を持ち続ける残りの年数を指します。何年経ったかではなく、あと何年使えるかを見よ、という考え方です。築25年でも、基礎と躯体が健全で、屋根と外壁の防水が更新され、給排水設備が入れ替えられていれば、残りの年数は十分に見込めます。逆に築15年でも、雨漏りを放置し、シロアリの被害が進行していれば、残存年数はほとんど残りません。
観察減価法は、この判断を裏づける作業です。設計や設備の機能性、維持管理の状態、補修の状況、周辺環境との適合の状態を実地に調査し、減価の実態を直接つかみます。建物にいくらの価値が残っているかは、年数表ではなく現物を見て決まるということです。
総額が同じでも、内訳は別に決まります
ここで一つ、誤解を招きやすい点を整理しておきます。
戸建ては土地と建物が一体で取引されます。ですから、建物に価値を認めたからといって、土地建物の合計額がその分だけ増えるとは限りません。多くの場合、増えるのは建物の取り分であり、その分だけ土地の内訳が下がります。合計は同じで、内訳だけが動く。これが実態に近い姿です。
では、合計が同じなら内訳はどうでもよいのか。そうではありません。内訳が金額を動かす場面が、財産分与には確かに存在します。
内訳が争点になる場面
土地が特有財産であるとき
最も金額が動くのがこの場面です。
夫の親から相続した土地に、婚姻後に夫婦の資金で家を建てた。このとき土地は原則として特有財産(婚姻前から持っていた財産や相続・贈与で得た財産で、分与の対象にならないもの)にあたり、分与の対象は建物部分に絞られます。
建物をゼロと置けば、分与の対象額もゼロになります。建物に価値を認めれば、その額が分与の土台になります。内訳の置き方が、受け取れる金額をそのまま決めてしまうわけです。実家の土地に建てた家の扱いは親の土地に建てた家の離婚──土地は対象外、では建物は?で詳しく扱っています。
リフォーム費用を負担した側が主張するとき
婚姻期間中に数百万円をかけて水回りや屋根を更新した場合、その支出が価値として残っているかどうかが論点になります。建物を一律ゼロとする前提に立てば、かけたお金はすべて消えたことになってしまいます。
前掲の国土交通省の指針が、リフォームによる価値の回復・向上を評価に反映すべきとしたのは、まさにこの点です。ただし、かけた費用の全額が価値として残るわけではありません。この関係はリフォームした家の財産分与──かけたお金と上がる価値は一致しないで整理しています。
売却して精算するとき
家を売って代金を分ける場合、譲渡所得の計算では土地と建物を分けて扱い、建物については取得費から減価償却相当額を控除します。売買契約書に記載される土地建物の内訳は、この計算の出発点になります。
財産分与の話し合いで置いた内訳と、売買契約書の内訳が食い違うと、後から説明を求められることがあります。課税関係の具体的な取扱いは、必ず税理士にご確認ください。
想定されるケース──築25年・木造戸建ての内訳
以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。
前提
首都圏近郊の木造2階建て、延床面積110平方メートル、築25年。土地は夫が父から相続した150平方メートルで、婚姻後に夫婦の資金で建物を新築しました。屋根と外壁は築15年時に全面更新、給湯器とキッチンは築20年時に交換済み。基礎と躯体に構造上の問題は見られません。一体としての市場価値は3,200万円と見込まれます。
建物の査定
再調達原価を1平方メートルあたり20万円とすれば、110平方メートルで2,200万円です。法定耐用年数の22年で機械的に判断すれば、減価は100パーセントで建物はゼロになります。
一方、維持管理の状態から経済的残存耐用年数をあと15年と判断した場合、残存率は15年を40年(経過25年+残存15年)で除した37.5パーセントとなります。2,200万円に乗じれば825万円。ここに観察減価法による調整を加え、建物価格を750万円と査定したとします。
内訳が変える金額
| 項目 | 建物ゼロとした場合 | 残存耐用年数を見た場合 |
|---|---|---|
| 土地(特有財産) | 3,200万円 | 2,450万円 |
| 建物(分与対象) | 0円 | 750万円 |
| 合計 | 3,200万円 | 3,200万円 |
合計額はどちらも3,200万円で変わりません。しかし土地が特有財産であるため、分与の対象になるのは建物の部分だけです。建物ゼロの前提では請求できる額はゼロ、建物750万円の前提では2分の1にあたる375万円が算定の土台になります。
同じ家について、同じ日に、375万円の差が生じるということです。なお、特有財産の範囲や寄与分の評価は法律判断です。必ず弁護士にご確認ください。
建物に価値を主張するために揃える資料
建築時の図面と検査済証
構造と仕様を裏づける基礎資料です。建築確認済証・検査済証は、その建物が建築基準法の手続きを経ていることを示します。手元になければ、建築を依頼した工務店や、市区町村の建築指導課で台帳記載事項証明書を取得できる場合があります。
維持管理と修繕の記録
経済的残存耐用年数を長く見るための、最も直接的な材料です。いつ、どこを、いくらで直したか。屋根・外壁の防水、給排水管、給湯器、シロアリ防除。領収書や工事の契約書が残っていれば、必ず集めてください。写真も有効です。
これらの記録の有無が、私たちが残存年数を何年と置けるかを左右します。記録がなければ、現地調査で観察できる範囲の判断にとどまります。
住宅診断の結果があれば
既存住宅状況調査(インスペクション)を受けていれば、その結果報告書は構造の健全性を示す客観的な資料になります。過去に売却を検討して調査を受けたことがある方は、報告書を探してみてください。
資料が揃っているほど、建物に価値を認める判断の根拠は厚くなります。どの資料をどこまで揃えるべきかは、離婚調停の前に揃えておきたい不動産資料チェックリストもあわせてご覧ください。
まとめ
「木造22年で価値ゼロ」は、税法が償却計算のために定めた年数を、市場価値の話に流用したものです。国土交通省は10年以上前に、一律に築20年から25年で建物をゼロとする慣行の是正を求めています。築25年の家に価値が残っているかどうかは、年数表ではなく建物の状態が決めます。
要点を振り返ります。
- 木造22年は減価償却資産の耐用年数等に関する省令の法定耐用年数であり、市場価値の基準ではない
- 国土交通省「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」(平成26年3月)は、一律ゼロの慣行と、リフォームが評価に反映されない実態を問題視した
- 不動産鑑定評価基準は、経過年数よりも経済的残存耐用年数に重点をおいて判断すべきとしている
- 土地建物の合計が同じでも、内訳は別に決まる。特有財産・リフォーム寄与・売却時の税務で内訳が効いてくる
- 土地が特有財産のケースでは、建物の内訳がそのまま分与額を決めることがある
- 建物に価値を主張するには、図面・検査済証・修繕記録・調査報告書を揃えることが近道になる
親から相続した土地に建てた家をお持ちの方、婚姻中に大きなリフォームをされた方、そして「建物は古いので値段はつきません」と説明されて釈然としない思いを抱えている方。その説明が妥当かどうかは、建物を見なければ判断できません。相手方の提示する内訳が適切かを見極めたい弁護士の先生も同様です。
築年数だけで建物の価値を切り捨てられてしまった自宅の評価、土地建物の内訳が争点になっている案件について、初回無料相談をご利用ください。お手元の資料と建物の状態をうかがったうえで、価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが適しているかをご提案します。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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