定期借地権マンションの財産分与──価値は残り年数で決まる
定期借地権マンションの価値は、近所の所有権マンションの相場からは出せません。残存40年・20年・10年の想定ケースで、残り年数とともに価値が逓減する仕組みと所有権との違い、保証金・前払地代・解体準備金の扱いまで鑑定士が整理します。

「うちのマンションは定期借地権です。財産分与のために近くの所有権マンションの相場を調べたら、思っていたより高い数字が出ました。これで分けて大丈夫でしょうか」。離婚のご相談で、定期借地権付きマンションにお住まいの方からこうした質問を受けることがあります。
結論から申し上げると、定期借地権マンションの価値は、近所の所有権マンションの相場からは出せません。土地を借りられる期間が決まっているため、残り年数が減るほど価値は下がり、期間満了の時点では建物を壊して土地を返すことになります。同じ築年・同じ広さでも、残存期間が40年か20年かで、財産分与の土台になる金額は大きく変わります。
この記事では、私たち鑑定士が、定期借地権マンションの価値が残存期間によってどう変わるのかを、残存40年と残存20年の比較で整理します。所有権マンションとの評価の考え方の違い、見落としやすい保証金や解体準備金の扱いまで取り上げます。なお、分与の方法や契約の効力といった法的判断は弁護士に、税金の扱いは税理士にご確認ください。
定期借地権マンションとは何を持っている状態か
建物は自分のもの、土地は期限付きで借りている
定期借地権マンションは、地主から期間を区切って借りた土地の上に建てられた分譲マンションです。区分所有者が持っているのは、住戸(専有部分)の所有権と、敷地を使う権利としての定期借地権の準共有持分です。土地の所有権は地主に残っています。
多くは借地借家法(平成3年法律第90号)第22条の一般定期借地権(存続期間50年以上で、契約の更新や建物買取請求をしない旨を定めたもの)を使っています。期間が満了すれば、原則として建物を取り壊し、更地にして地主に返します。
旧法借地権とは「終わりがある」点で決定的に違う
平成4年8月1日より前に設定された旧借地法の借地権は、地主に正当な事由がなければ更新を拒めず、事実上長く使い続けられる権利です。これに対して定期借地権は、契約で終わりの日が決まっています。
借地の家全般の評価は借地権付きの家は財産分与でいくらになるのか──借地権割合を掛けるだけでは決まらないで整理しました。定期借地権マンションは、そこに「残り何年か」という物差しが加わる類型です。
財産分与の対象になり得る
婚姻中に購入した定期借地権マンションは、名義が夫婦の一方であっても、夫婦が協力して形成した財産として財産分与の対象になり得ます。期限付きの権利だから対象外になる、ということはありません。対象かどうかの最終的な判断は法律問題ですので、弁護士にご確認ください。
定期借地権マンションの価値が残存期間で逓減する仕組み
価値の正体は「残りの期間に住める利益」
不動産鑑定評価基準(国土交通省)は、借地権の価格を、借地権に基づいて土地を使用収益することにより借地人に帰属する経済的利益を貨幣額で表したものとしています。定期借地権マンションに当てはめると、残りの期間に住み続けられる(または貸して賃料を得られる)利益から、地代・管理費・解体準備金などの負担を差し引き、それを現在の価値に引き直したもの、と考えることができます。
所有権マンションであれば、建物が古くなっても敷地の持分は残ります。定期借地権マンションは、期間満了とともに土地を返すため、最後に残るものがありません。ここが評価の考え方の出発点で、最も大きな違いです。
年数が半分になっても、価値は半分にならない
残りの期間の利益を現在価値に引き直すと、価値は残存期間に比例して直線的に減るのではなく、はじめは緩やかに、満了が近づくにつれて急に減っていきます。遠い将来の利益ほど、今の価値に引き直したときの重みが小さいからです。
つまり、残存40年が20年になっても、価値は半分にはなりません。一方で、残存20年が10年になる局面では、目に見えて下がります。
中古市場ではさらに買い手が絞られる
計算上の価値に加えて、中古で売るときは買い手の事情も効いてきます。住宅ローンの返済期間を残存期間より長く組みにくい、満了後に住む場所の問題がある、といった理由から、残存期間が短くなるほど買い手は限られていきます。断言しますが、残存期間を確認しないまま所有権マンションの相場を当てはめた金額は、財産分与の土台として使えません。
数字で確かめる──残存40年と残存20年の比較
以下は想定されるケースとして前提を置いたもので、実在の事案ではありません。計算は考え方を示すための単純化したものです。
前提を置く
- 夫婦共有名義の定期借地権マンション(一般定期借地権・設定期間60年)
- 住戸を貸したとすれば得られる賃料から、地代・管理費・修繕積立金・解体準備金などを差し引いた手残りを、年160万円とする
- この手残りが満了まで一定で続くものとし、年4%で現在価値に引き直す
- 満了時は建物を取り壊して土地を返すので、満了後に残る価値はゼロとする
残存期間別の価値
| 残存期間 | 年金現価率(年4%) | 価値の目安 | 2分の1相当 |
|---|---|---|---|
| 40年 | 19.79 | 約3,170万円 | 約1,580万円 |
| 20年 | 13.59 | 約2,170万円 | 約1,090万円 |
| 10年 | 8.11 | 約1,300万円 | 約650万円 |
年金現価率は、毎年同じ額を一定期間受け取るとき、その合計を今の価値に引き直すための係数です。残存期間が40年から20年へと半分になっても、価値は約3,170万円から約2,170万円へ、約3割減にとどまります。ところが20年から10年への10年間では、約4割減ります。満了が近づくほど、1年ごとの目減りが大きくなるのです。
所有権マンションと比べると
仮に同じ住戸が所有権マンションであれば、建物が古くなっても敷地の持分の価値は残るため、残存期間という発想そのものがありません。近隣の所有権マンションの成約価格が4,000万円だったとして、これをそのまま当てはめると、残存20年のケースでは約1,800万円、2分の1でも約900万円の差が生じます。
相手方が近所の所有権マンションの相場で主張してきたとき、残存期間を示すだけで議論の前提が変わります。分与の基準になる時点については財産分与の「基準時」は1つではない──財産の範囲は別居時、評価は裁判時で整理しました。定期借地権マンションは時間の経過そのものが価値を下げるため、評価の時点がいつかは、所有権マンション以上に金額に響きます。
見落としやすい3つのお金
保証金は返ってくるお金
定期借地権マンションでは、分譲時に地主へ保証金を預けている場合があります。保証金は契約の終了時に返還される預け金で、利息が付かないのが一般的です。返ってくる時期は満了時ですから、額面のままではなく、返ってくるまでの年数を考えた金額で見る必要があります。
建物とは別の財産として数え漏れがないか、分譲時の契約書と重要事項説明書で確認してください。
前払地代は残りの期間に配分されている
地代の一部をまとめて前払いする「前払地代」方式の物件もあります。前払地代は契約期間にわたって地代に充てられていくもので、残りの期間に対応する部分が、いわば先払い済みの利益として残っています。保証金と混同されやすいので、契約書でどちらの方式かを確かめることが出発点です。前払地代や保証金の税務上の扱いは、税理士にご確認ください。
解体準備金は管理組合の口座にある
期間満了時の取壊し費用に備えて、管理費や修繕積立金とは別に「解体準備金」を積み立てている物件が多くあります。積立金は管理組合の財産で、区分所有者が個別に引き出せるものではありません。ただ、積立が十分か不足しているかは将来の負担の大きさを左右し、中古価格にも反映されます。管理組合の総会資料で、積立残高と今後の積立計画を確認しておくと評価の精度が上がります。
評価の土台をつくる手順
先に確保しておく資料
| 資料 | 何がわかるか | 入手先 |
|---|---|---|
| 定期借地権設定契約書 | 設定期間・満了日・地代・特約 | 分譲時の書類 |
| 重要事項説明書 | 保証金・前払地代・解体の取決め | 分譲時の書類 |
| 管理組合の総会資料 | 解体準備金・修繕積立金の残高 | 管理組合・管理会社 |
| 登記事項証明書 | 名義・持分・敷地権の内容 | 法務局 |
満了日は、評価の前提そのものです。契約書が見当たらない場合でも、管理会社に問い合わせれば確認できることがほとんどです。
住み続けるか、売るかで論点が変わる
一方が住み続けて代償金を払う場合は、残存期間に見合った価値を前提に代償金を決めることになります。残存期間が短い物件で所有権マンションの相場を前提に代償金を払えば、住み続ける側が払いすぎることになります。
売却して分ける場合は、実際の売却額がそのまま分ける金額になります。ただし、残存期間が短い物件は売却に時間がかかることがあるため、いつまでに売るかを決めておく必要があります。分け方の選択肢は家の分け方は3つしかない──現物分与・代償分与・換価分与で整理しました。
どの評価を使うか
話し合いの段階では、残存期間・地代・保証金の扱いを踏まえた価格等調査報告書で土台をつくるのが現実的です。調停・訴訟で正面から争うのであれば鑑定評価書が機能します。マンション1室の鑑定評価書は40万円〜、価格等調査報告書は15万円〜、相手方の査定書の検証(セカンドオピニオン)は5万円〜です(いずれも税別)。調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点にお見積りします。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
まとめ
定期借地権マンションの価値は、近隣の所有権マンションの相場では測れず、残り年数によって決まります。要点を振り返ります。
- 定期借地権マンションは、期間満了時に建物を取り壊して土地を返すのが原則で、最後に残る価値がない
- 価値は残りの期間に住める利益を現在価値に引き直したもので、満了が近づくほど目減りが大きくなる
- 想定ケースでは、残存40年で約3,170万円、残存20年で約2,170万円、残存10年で約1,300万円となった
- 所有権マンションの相場をそのまま当てはめると、分与額が大きくずれる
- 保証金・前払地代・解体準備金は、それぞれ性質が違うので契約書と管理組合の資料で確認する
定期借地権マンションにお住まいで離婚を考えている方、相手方から所有権マンション並みの金額を示されている方、定期借地権マンションを含む財産分与の案件を抱えられた弁護士の先生にとって、最初の一歩は満了日を確認することです。残り年数が分かれば、価値の測り方が決まります。
定期借地権マンションの評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。残存期間と契約内容から、どの評価が必要になるのかという見立てをお答えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
不動産鑑定士が財産分与の不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は財産分与の不動産鑑定のページでまとめています。
FREE CONSULTATION
鑑定が必要かどうかのご相談だけでも歓迎です
記事に関連するお悩みについて、不動産鑑定士に直接ご相談いただけます。
関連記事

地方の家は離婚でどう評価するのか──「近所で売れていない」ときの鑑定の手法
地方の家を離婚で評価したいのに「近所で取引がなく査定が出ない」。そんなとき鑑定士は同一需給圏まで事例を広げ、原価法や地価調査で価格を確かめます。事例が少ない地域で評価がぶれる理由と、分与額への影響を想定されるケースで解説します。
読了 約14分

3,000万円の家の3分の1は1,000万円ではない──離婚で共有持分を分けるときの評価
夫婦以外に共有者がいる家は、全体価格に持分割合を掛けた金額では売れません。按分が成り立たない理由を民法の規律から分解し、想定ケースで按分額1,000万円と市場価値600万円の差を示したうえで、協議の設計までご説明します。
読了 約15分

借地権付きの家は財産分与でいくらになるのか──借地権割合を掛けるだけでは決まらない
借地の家は建物だけを分ければよい、という理解は正しくありません。土地を使い続ける権利そのものに値段がつきます。路線価図の借地権割合を掛けた金額が実勢と食い違う理由、地代の水準が効く仕組み、地主に払う譲渡承諾料までを、想定されるケースの数字で整理します。
読了 約14分