変動金利の上昇と離婚──家をもらって住み続ける側の利息は、代償金に迫る

変動金利の上昇局面で離婚し、家をもらって住み続ける側は将来の金利リスクも引き受けます。財産分与の「時価−残債」に利息は入りません。残債3,000万円なら金利1%上昇で利息総額が約417万円増える試算と、5年ルール・借換え審査・3つの選択肢を整理します。

著者:吉田 健人·読了 約12分
変動金利の上昇と離婚──家をもらって住み続ける側の利息は、代償金に迫る

変動金利の上昇が続くなかで離婚を考え、「家をもらって住み続けたいけれど、この先ローンを払い切れるのか」と不安を抱える方は少なくないはずです。日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導目標)を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げました(9月24日適用)。変動金利の住宅ローンは、この動きを追いかけて上がっていきます。

先に結論をお伝えします。財産分与でよく使われる「時価から住宅ローン残高を引いた額を2分の1ずつ」という計算には、将来の利息が入っていません。家をもらう側は、代償金とは別に「これから金利が上がるリスク」を丸ごと引き受けることになります。後で見る想定されるケースでは、金利が1%上がるだけで利息の総額が約417万円増え、代償金500万円に迫ります。

私たち鑑定士は、家の価格を評価する専門家です。その立場から、この記事では金利上昇が返済額と家の評価の両方にどう効くのかを数字で整理し、「住み続ける」と決める前に確認しておきたいことをお伝えします。

変動金利の上昇は、離婚の財産分与にどう関わるのか

「時価−残債」の残債は元本だけです

自宅の財産分与では、評価額(時価)から住宅ローン残高を差し引いた実質的な価値を、原則として2分の1ずつ分ける扱いが一般的です。たとえば時価4,000万円、残債3,000万円なら、実質的な価値は1,000万円。家をもらう側が相手に500万円の代償金(家を取得する代わりに相手へ支払うお金)を払う計算になります。

ここで差し引く「残債」は、その時点で残っている元本です。これから25年かけて支払う利息は、どこにも登場しません。金利が上がって利息が膨らんでも、その負担は家をもらった側だけに降りかかります。

相手のローンで住み続ける形では、リスクの向きが逆になります

家の名義もローンも夫のまま、妻と子どもが住み続けるという取り決めもあります。この場合、金利上昇で返済額が増えるのは出ていった夫の側です。自分が住まない家のローンが毎月増えていけば、支払いが滞るおそれは高まります。滞納が続けば金融機関は担保不動産の競売に進みますから、住んでいる側は自分に落ち度がなくても家を失いかねません。この形のリスクは夫名義の家に妻が住み続ける形は、何がリスクなのかで詳しく整理しています。

住宅ローンの金利が上昇すると、返済額はいくら増えるのか

変動金利の返済額が決まる仕組み

変動金利型の住宅ローンの多くは、年2回、金融機関が定める基準金利(短期プライムレートに連動させる例が一般的です)に合わせて適用金利を見直します。そのうえで、次の二つの取り決めを置いている商品が少なくありません。

  • 5年ルール:金利が見直されても、毎月の返済額は5年間変わらない
  • 125%ルール:5年後に返済額を見直すとき、新しい返済額は直前の1.25倍までに抑える

返済額が据え置かれている間は、金利が上がった分だけ返済額に占める利息の割合が増え、元金の減りが遅くなります。見直し後の返済額が上限で抑えられれば、払い切れなかった利息(未払利息)が生じ、最終回にまとめて請求される場合もあります。なお、こうしたルールを置かない商品もありますので、ご自身の金銭消費貸借契約書で必ず確認してください。

金利が1%上がると、毎月いくら増えるか

残債3,000万円・残り25年・元利均等返済という条件で、金利ごとの返済額を計算しました(金利がその水準で完済まで続くと仮定した単純計算です)。

適用金利毎月の返済額利息の総額
年0.8%約11万400円約311万円
年1.8%(1%上昇)約12万4,300円約728万円
年2.8%(2%上昇)約13万9,200円約1,175万円

金利が1%上がると、毎月の返済は約1万3,900円、年間で約16万7,000円増えます。25年を通した利息は約417万円増える計算です。2%上がれば、利息の増加は約864万円に達します。

返済額が据え置かれていても、元金は減りにくくなります

5年ルールのある商品で、月々約11万400円の返済が据え置かれたとします。金利0.8%のときの最初の月の利息は2万円で、残りの約9万400円が元金に充てられます。金利が2.8%に上がると、同じ返済額のうち利息が7万円を占め、元金には約4万400円しか回りません。

毎月の引落額が変わらないので、上昇の影響に気づきにくいのが変動金利の怖さです。「返済額は前と同じだから大丈夫」ではなく、年に1回届く返済予定表で残高の減り方を確認することをおすすめします。

想定されるケース──代償金500万円を払って家をもらう

以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。

前提

夫婦共有の自宅マンションの時価が4,000万円、夫名義の住宅ローン残高が3,000万円(残り25年・変動金利年0.8%)。妻が子どもと住み続けることを希望し、自分の単独名義のローンに借り換えたうえで、夫に代償金500万円を支払う方向で協議が進んでいます。妻の年収は500万円です。

年収に占める返済の割合で見る

適用金利年間返済額年収500万円に占める割合
年0.8%約132万円約26.5%
年1.8%約149万円約29.8%
年2.8%約167万円約33.4%

年収に占める年間返済額の割合を返済負担率といい、金融機関は審査で上限を設けています。しかも審査では、実際の適用金利より高い審査用の金利で返済額を計算するのが一般的です。金利上昇局面では、今の返済額なら払えるという感覚と、借換えの審査結果が食い違うことがあります。単独名義への借換えの進め方は離婚とローン借り換え──「家をもらう側」が先に銀行へ行くべき理由をご覧ください。

代償金と、将来の利息増加を並べてみる

このケースで妻が夫に支払う代償金は500万円です。一方、金利が1%上がった状態が続けば、妻が今後支払う利息は約417万円増えます。代償金とほぼ同じ規模の負担が、財産分与の計算の外側で発生しうるということです。

金利が下がる可能性もありますから、これはあくまで一つのシナリオにすぎません。ただ、「家をもらう=得をする」とは限らず、金利変動のリスクも一緒に受け取るのだという点は、協議の前に理解しておく必要があります。将来の利息負担を財産分与の中でどう扱うかは、一般的には考慮されないことが多いと考えられますが、個別の事情による主張の余地は弁護士にご確認ください。

金利上昇は家の評価額にも影響するのか

鑑定評価基準は「金融の状態」を価格形成要因に挙げています

不動産鑑定評価基準は、不動産の価格に影響を与える一般的要因(社会全体に共通して作用する要因)の一つとして、経済的要因のなかに「財政及び金融の状態」を掲げています。住宅ローンの金利が上がれば、同じ年収で借りられる額が減り、買い手の購買力が下がります。投資用の不動産であれば、期待される利回りの上昇を通じて価格に下押しの力が働きます。

一方で、建築費の上昇や都心部の需要の強さなど、価格を押し上げる要因も同時に存在します。金利が上がれば家の価値が必ず下がる、という単純な関係ではありません。

評価の時点がずれると、分ける金額が変わります

財産分与では、対象となる財産の範囲は別居時を基準としつつ、評価は協議の成立時や裁判時に近い時点で行う扱いが一般的です。協議が長引く間に市況が動けば、評価額も、それをもとに計算する代償金も動きます。私たち鑑定士が評価の際に価格時点(評価の基準となる日)を明記するのはこのためです。協議が長引きそうなときは、評価をいつ取るかも含めて弁護士と相談しておくと安心です。

離婚後も家に住み続けるリスクを小さくする3つの選択肢

選択肢1:固定金利への借換え

単独名義へ借り換えるタイミングで、全期間固定金利や当初10年などの固定期間選択型を選ぶ方法です。変動金利より当初の金利は高くなりますが、返済額が確定するため、子どもの進学費用などと並べた家計の見通しが立てやすくなります。借換えに伴う住宅ローン控除の扱いは条件によって異なりますので、税理士にご確認ください。

選択肢2:代償金を抑えて手元資金を残す

預貯金や退職金なども含めた財産全体で通算し、家をもらう側が現金を多く手放さずに済む形を検討する方法です。手元に資金が残っていれば、金利が上がったときに繰上返済で元金を減らす余力になります。

選択肢3:住み続けないという判断

返済負担率が高く、金利上昇に耐える余力が乏しい場合は、売却して代金を分ける換価分与も選択肢です。住み続けることを前提に無理な条件で合意すれば、数年後に返済が行き詰まり、結局は売却に追い込まれることもあります。住み続けるのに必要なお金の洗い出しは離婚後も今の家に住み続けるという選択──必要なお金を全部書き出すが参考になります。

まとめ

変動金利が上昇する局面での離婚では、家をもらうことが、代償金の支払いに加えて将来の金利リスクまで引き受けることを意味します。「住み続ける」と決める前に、金利が上がった場合の返済額を数字で確認してください。

要点を振り返ります。

  • 財産分与の「時価−残債」の残債は元本だけで、将来の利息は計算に入らない
  • 残債3,000万円・残り25年なら、金利1%上昇で毎月約1万3,900円、利息総額で約417万円増える
  • 5年ルール・125%ルールで返済額が据え置かれても、元金の減りは遅くなる
  • 借換えの審査は実際より高い金利で行われるため、返済負担率に余裕を持たせておく
  • 金利は家の価格形成要因の一つだが、上がれば必ず価格が下がるわけではない
  • 固定金利への借換え、手元資金を残す分け方、売却という選択肢を比べてから決める

変動金利で返済中の家を財産分与で取得しようとしている方、住み続けるかどうかで迷っている方にとって、出発点は「その家がいくらか」という評価額です。評価額が固まれば、代償金と借換えの額が決まり、金利上昇に耐えられるかどうかの試算ができるようになります。

離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。住み続ける前提の協議か、売却も視野に入れた協議かをうかがったうえで、鑑定評価書(20万〜60万円・税別)と価格等調査報告書(10万〜15万円・税別)のどちらが目的に見合うかをご案内します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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