離婚で相手が家を見せてくれない──内覧なしで財産分与の評価を進める方法
離婚の協議中、家に住み続ける相手が内覧を拒み、家を見せてくれない。そんなときでも財産分与の評価は進められます。外観調査・図面・管理組合資料で補う方法、内部の状態が代償金に与える影響、評価書への前提の書き方を不動産鑑定士が解説します。

離婚の話し合いが始まり、家を出た側が自宅の評価を取ろうとしたところ、住み続けている相手が家を見せてくれない。「中を見られないなら、正しい価格なんて出せないのでは」「相手の言い値で決まってしまうのでは」と不安を感じている方は少なくありません。
結論から申し上げます。相手が内覧(建物の内部に立ち入って状態を確認すること)を拒んでいても、不動産の評価は進められます。外観と周辺の調査、図面や購入時の資料、マンションであれば管理組合の資料を組み合わせ、内部の状態については「どのような前提で判断したか」を評価書に明記すれば、財産分与の協議や調停で使える評価になります。
この記事では、私たち鑑定士の立場から、内覧できないときに取り得る手段と、それによって評価額がどの程度動きうるのか、そして評価書に条件をどう書くべきかを整理します。立入りを求める法的な手順は弁護士の先生のご判断によりますので、一般的な流れの紹介にとどめます。
離婚で相手が家を見せてくれないのは珍しくない
住んでいる側が内覧を断る理由
別居が始まると、自宅には一方の配偶者と子どもが住み、もう一方は実家や賃貸住宅に移る形がよく見られます。この状態で家を出た側が「評価のために家に入りたい」と申し出ると、住んでいる側は次のような理由で断ることがあります。
- 別居の原因となった相手を家に入れたくない
- 生活空間や子どもの様子を見られたくない
- 評価額が高く出ると、家を取得する場合の代償金(家を取得する側が相手方に支払う調整金)が増える
特に3つ目は、評価そのものに関わる動機です。家を取得したい側にとっては、評価額が低い方が有利になります。内部を見せないまま「中は傷んでいる」と主張されると、家を出た側は反論の材料を持てません。
鍵を持っていても無断で入らない
家を出た側が鍵を持っていたり、登記上の所有者や共有者であったりすることもあります。それでも、相手方が現に生活している家に無断で立ち入ることは避けてください。住居侵入などのトラブルに発展するおそれがあり、調停や訴訟での心証にも影響しかねません。立入りの可否や方法は、必ず弁護士にご確認ください。
同様に、鑑定士が相手方の了解なく敷地や建物内に入ることもありません。評価は、公道から見える範囲と入手できる資料をもとに進めるのが原則です。別居中に家が勝手に処分されないか心配な方は、別居中に家を勝手に売られない?──不安なときに確認すべきこともあわせてご覧ください。
内覧できなくても財産分与の評価はできる
鑑定評価基準は「内覧できない場合」を想定している
不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際の統一的な基準)は、実地調査の一部ができない場面をあらかじめ想定しています。総論第9章第2節は、鑑定評価報告書に記載すべき事項として、「実地調査を行った範囲(内覧の実施の有無を含む。)」と「実地調査の一部を実施することができなかった場合にあっては、その理由」を挙げています。
つまり、内覧していない鑑定評価書は、それだけで欠陥品になるわけではありません。求められているのは、内覧していないことを隠さず書き、その理由と、見えない部分をどう扱ったかを読み手に示すことです。同じ章では、資料の不備などで明らかにできない事項がある場合の評価上の取扱いと、鑑定士が自ら行った調査の範囲を明確にすることも求めています。
内部が見えないことで評価額はどれくらい動くのか
内覧できないことの影響は、物件の種類によって大きく異なります。
| 物件の種類 | 価格を主に決める要素 | 内部が見えない影響 |
|---|---|---|
| 戸建て(築20年超) | 土地の価格 | 比較的小さい |
| 戸建て(築浅) | 土地と建物の両方 | 中程度 |
| マンション | 立地・階数・方位・専有面積 | 内装の状態次第で中程度 |
築年数を経た木造戸建ては、価格の大部分を土地が占めます。土地は外から確認できる接道・形状・面積で評価の大枠が決まるため、室内が見えないことの影響は限られます。一方、マンションは土地を単独で取引できないため、専有部分の内装や設備の状態が価格に表れやすく、内覧できないことの影響が相対的に大きくなります。
内覧なしで評価を進める3つの手段
内部を見られないときは、次の3つの手段を組み合わせて、見えない部分を資料で補います。
外観調査と周辺調査
鑑定士は、公道など第三者が立ち入れる場所から、建物の外観、外壁や屋根の劣化、接道状況、隣地との関係、日照や眺望の見通しを確認します。戸建てであれば、外壁のひび割れや雨どいの破損といった外観の状態から、維持管理の程度をある程度推し量ることができます。
あわせて、役所での法令上の制限の確認、法務局での登記・地図の確認、周辺の取引事例や売出事例の収集を行います。これらは内覧の可否に関係なく実施できる調査であり、評価の骨格はここで固まります。
図面・購入時の資料・過去の写真
家を出た側の手元に残っている資料は、内部を知る重要な手がかりです。
- 購入時のパンフレット、販売図面、重要事項説明書、売買契約書
- 建築確認済証、検査済証、設計図書(戸建ての場合)
- リフォームの見積書、請求書、工事写真
- 別居前に撮影した室内の写真や動画
- 住宅設備の保証書や交換時期がわかる書類
とくにリフォームの履歴は、建物の価値に直結します。どこを、いつ、いくらで直したかがわかれば、内覧できなくても内部の状態を合理的に推定できます。別居前の写真は、撮影日がわかる形で残しておくと資料としての価値が高まります。
マンションは管理組合の資料が使える
マンションの場合、共用部分の状態は管理組合の資料で把握できます。長期修繕計画、修繕積立金の残高、大規模修繕の実施時期、総会の議事録などです。区分所有者であれば、管理会社を通じてこれらの資料を確認できる場合があります。
また、同じマンション内の過去の売出事例では、同じ間取りの住戸の室内写真が公開されていることがあります。分譲時の標準仕様を知る手がかりとして有効です。家から離れた場所にいても評価を進める方法は、遠方にある持ち家の財産分与──現地に行けなくても評価はできるのかでも解説しています。
想定されるケース:内部の状態が代償金に与える影響
前提となる状況
次のような状況を想定します。数値は説明のための想定です。
- 東京都内の築18年のマンション(専有面積70平方メートル・3LDK)
- 夫が家を出て、妻と子どもが住み続けている。妻が家を取得する方向で協議中
- 住宅ローン残高は2,800万円
- 妻は内覧を拒否し、「水回りも内装もかなり傷んでいる」と主張している
外観・共用部分・周辺の取引事例から、標準的な使用状態を前提とした評価額を4,800万円と見立てたとします。
内部の状態ごとの代償金
財産分与では、評価額から住宅ローン残高を差し引いた額を2分の1ずつ分ける考え方が一般的です。内部の状態について3つの前提を置くと、代償金は次のように変わります。
| 内部の状態の前提 | 評価額 | 評価額−ローン残高 | 代償金(2分の1) |
|---|---|---|---|
| 最近リフォーム済み | 4,950万円 | 2,150万円 | 1,075万円 |
| 標準的な使用状態 | 4,800万円 | 2,000万円 | 1,000万円 |
| 補修費300万円程度を要する傷み | 4,500万円 | 1,700万円 | 850万円 |
内部の状態の前提が変わるだけで、代償金には最大で225万円の差が生じます。実際には、補修費の額がそのまま評価額の差になるとは限りませんが、内部の状態が争点になりうる規模感はつかめるはずです。
この差をどう詰めるか
このケースで家を出た夫の側がすべきことは、「標準的な使用状態」を前提とした評価を根拠とともに示し、それより低い価格を主張するのであれば傷みの具体的な資料を出してほしい、と求めることです。一般的には、減価を主張する側が、室内の写真や修繕の見積書などで裏付けることになる場面が多いと考えられます。この点の主張の組み立ては、弁護士にご相談ください。
評価書に「前提」をどう書くか
内覧を実施していないことと、その理由
内覧できなかった評価では、評価書に「内覧を実施していないこと」と「その理由(例:居住者の了解が得られなかったため)」をはっきり書きます。これは鑑定評価基準上の要請であると同時に、調停委員や裁判所に対して評価の範囲を正直に示す意味があります。見えていない部分を見たかのように書いた評価書は、後で必ず信用を失います。
内部の状態をどう前提したか
次に、内部の状態をどのような根拠で、どう判断したかを書きます。たとえば「分譲時の標準仕様と、築年数に応じた通常の使用状態を前提とした。専有部分に特段の損傷はないものとして評価しており、損傷が判明した場合には評価額が変動しうる」といった書き方です。
鑑定評価基準は、資料の制約がある場合に、依頼者の同意を得て条件を設定するか、鑑定士自身の調査分析能力の範囲内で価格への影響を推定して評価することを認めています(総論第8章第6節)。どちらの方法を採ったかを明示しておけば、相手方が後から資料を出してきたときに、どこをどう修正すればよいかが読み手にも明確になります。
相手が後から「傷んでいる」と主張してきたら
評価書を提出した後に、相手方が室内の写真や見積書を出してくることがあります。そのときは、資料の内容を確認したうえで、評価額への影響を補足する意見を出すことで対応できます。前提を明記しておいたことが、ここで生きてきます。反対に、相手方の資料が補修の必要性を裏付けていなければ、その旨を指摘できます。
立入りを求める手順は調停と裁判所鑑定で変わる
弁護士を通じた申入れと調停での要請
当事者同士では話が進まなくても、弁護士を通じて「鑑定士が短時間だけ室内を確認したい」「本人は立ち会わない」と条件を示すと、応じてもらえることがあります。調停の場であれば、調停委員を介して内覧への協力を求める方法もあります。住んでいる側にとっても、内部の傷みを主張したいなら実際に見せた方が有利になる場面があるため、その点を伝えることも一案です。
裁判所の鑑定になった場合
話し合いで評価額がまとまらず、審判や訴訟で裁判所が鑑定を命じると、裁判所が選んだ鑑定人が評価を行います。その過程で現地調査の日程調整が行われ、当事者には協力が求められます。手続の流れや費用の予納については、離婚で裁判所鑑定になったら何が起きるのか──申立て・費用の予納・現地調査の時系列で解説しています。どの段階で裁判所の手続を選ぶかは、弁護士とご相談ください。
私的に依頼する評価の成果物は、協議の材料であれば価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らず、目的や範囲を限定して価格を示す書面)、調停や訴訟に提出する前提であれば鑑定評価書が適しています。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
まとめ
相手が家を見せてくれなくても、財産分与のための評価は止まりません。見えない部分を資料で補い、前提を評価書に明記することが、内覧できない評価を協議や調停で通用させる鍵だと断言します。
要点を振り返ります。
- 相手が内覧を拒んでいても、外観・資料・周辺調査で評価は進められる
- 鍵を持っていても、相手が住む家に無断で立ち入らない
- 鑑定評価基準は、内覧の有無と実施できなかった理由を評価書に書くよう求めている
- 戸建ては土地の比重が大きく、マンションは内装の状態が価格に表れやすい
- 内部の状態の前提次第で、代償金が数百万円単位で動くことがある
- 評価の前提を明記しておけば、相手方が後から資料を出しても修正の筋道が明確になる
別居中で自宅に入れず、相手の提示額が妥当かどうか判断できない方、依頼者が内覧を拒まれている財産分与事件を担当されている弁護士の先生は、手元にある図面や写真がどこまで評価に使えるかを確認するところから始めてみてください。
離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。内覧できない状況でどこまで評価できるか、率直にお答えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
不動産鑑定士が財産分与の不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は財産分与の不動産鑑定のページでまとめています。
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