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婚姻費用で住宅ローンはどう扱われるのか──住居費の二重負担を4つの計算で比べる

別居中、妻子が住む家の住宅ローンを夫が払う場合、婚姻費用から引けるのか。実務で多い「標準的な住居関係費」の控除を中心に、4つの計算方法を算定表への当てはめ例で比べ、財産分与での自宅評価とのつながりを不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約13分
婚姻費用で住宅ローンはどう扱われるのか──住居費の二重負担を4つの計算で比べる

別居中の夫婦で、妻と子が住み続ける家の住宅ローンを夫が払い続けている。夫は別にアパートを借りて家賃も払っている。そのうえで婚姻費用(別居中も夫婦が分担する生活費)を算定表どおりに払うのは二重の負担ではないか。婚姻費用と住宅ローンの関係は、婚費の調停で必ずといってよいほど争点になる論点です。

結論から申し上げます。実務では、権利者(婚姻費用を受け取る側)が義務者(支払う側)名義の家に住み、義務者がローンを払っている場合、算定表で出した額から「権利者の年収に応じた標準的な住居関係費」を差し引く方法が多く採られているとされます。ローンの全額が婚姻費用から引かれるわけではありません。ローン返済の多くは元本の返済、つまり家という財産を増やす支出であり、その清算は財産分与の場面で行うという考え方があるためです。

この記事では、私たち鑑定士の立場から、この論点を算定表への当てはめ例で数字に落とし、控除の方法ごとに義務者の負担がどう変わるかを比べます。あわせて、婚姻費用の話し合いが、後に続く財産分与での自宅の評価とどうつながるのかを整理します。

婚姻費用と住宅ローンが衝突する理由

算定表にはすでに「住居費」が入っている

家庭裁判所で使われる算定表は、司法研修所編「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」(令和元年12月公表)で示された標準算定方式に基づいています。この方式では、総収入から税金や社会保険料、職業費に加えて、住居関係費などの「特別経費」を差し引いて基礎収入(生活費に充てられる部分)を求めます。

つまり、算定表の婚姻費用は、権利者が自分で住居費を払うことを前提に組み立てられています。ところが権利者が義務者名義の家にローン負担なしで住んでいれば、権利者はその住居費を払っていません。その一方で、義務者はローンを払い、自分の住まいの家賃も払っています。ここに「住居費の二重負担」が生じます。

ローン返済には2つの性格がある

住宅ローンの返済額は、利息と元本に分かれます。利息は住むためのコストに近い性格を持ちますが、元本の返済は、ローン残高を減らして家の純資産(評価額からローン残高を引いた額)を増やす支出です。

この「住居費」と「資産形成」の二面性が、婚姻費用の算定でローンをどこまで考慮するかを難しくしています。資産形成の部分まで婚姻費用から引くと、権利者は生活費を削られたうえ、増えた純資産は財産分与で義務者の側に計上される、という不公平が起こりうるからです。

婚費の二重負担はどう整理されるか──考え方は4つ

考慮しない方法

ローンを婚姻費用の算定で一切考慮しない考え方です。義務者が家を出て、権利者も別の住まいに移っている場合や、義務者自身がその家に住んでいる場合は、ローンは義務者自身の住居費または資産形成の支出にすぎず、基本的に婚姻費用の算定では考慮されないとされています。

標準的な住居関係費を控除する方法

権利者が義務者名義の家に住み、義務者がローンを払っている場合に、実務で多く採られているとされる方法です。算定表で出した婚姻費用の額から、権利者の年収階級に対応する標準的な住居関係費を差し引きます。

前述の司法研究では、この住居関係費が年収階級ごとに示されています。たとえば権利者の年収が200万円未満なら月2万2,247円、400万円以上450万円未満なら月4万5,284円です。権利者が払わずに済んでいる「自分の住居費」の分だけを差し引く、という発想であり、元本返済による資産形成の部分には踏み込みません。

ローン返済額の一定割合を控除する方法

事案によっては、標準的な住居関係費を超えて、ローン返済額の一定割合を差し引く判断がされることもあります。権利者の収入が高い場合や、ローン返済額が大きく義務者の生活が成り立たない場合など、個別の事情が考慮されます。

ローン全額を控除する方法

ローン返済額をそのまま婚姻費用から差し引く方法です。義務者にとっては最も有利ですが、先に述べた資産形成の側面を無視することになるため、一般には採られにくい考え方とされています。義務者の総収入からローン返済額を差し引いて算定表に当てはめる方法が採られた例もありますが、どの方法が採られるかは事案ごとの判断ですので、具体的な主張は弁護士にご確認ください。

想定されるケース:算定表に当てはめて比べる

ケースの前提

数値は説明のための想定です。

  • 夫(義務者): 給与年収600万円。別居後、家賃月7万円のアパートに居住
  • 妻(権利者): パート年収100万円。夫名義の戸建てに子1人(10歳)と居住
  • 住宅ローン: 夫が単独債務者。返済額は月9万円、残高3,000万円、金利0.8%

標準算定方式で計算すると、夫の基礎収入は600万円×41%=246万円、妻の基礎収入は100万円×50%=50万円です。妻と子の世帯に割り振られる生活費は、(246万円+50万円)×(100+62)÷(100+100+62)=約183万円となり、ここから妻自身の基礎収入50万円を差し引いた約133万円、月額にして約11.1万円が婚姻費用の目安になります。算定表でも10万〜12万円の帯に入る水準です。

4つの方法での比較

妻の年収は200万円未満なので、標準的な住居関係費は月約2.2万円です。一定割合の例として、ローン返済額の半分(4.5万円)を差し引く場合も並べます。

方法婚姻費用(月)ローン+家賃(月)夫の支出合計(月)
考慮しない約11.1万円16万円約27.1万円
標準的な住居関係費を控除約8.9万円16万円約24.9万円
ローンの半額を控除約6.6万円16万円約22.6万円
ローン全額を控除約2.1万円16万円約18.1万円

年収600万円の給与所得者の手取りは、扶養や保険料の条件にもよりますが月40万円に届かない水準です。考慮しない方法では、その7割前後が婚姻費用と住居費に消えることになります。

ローン9万円の中身を分けてみる

ここで、月9万円の返済の中身を見てみます。残高3,000万円・金利0.8%なら、1か月の利息は3,000万円×0.8%÷12=約2万円で、残りの約7万円は元本の返済です。つまり返済額の8割近くは、家の純資産を増やしている部分です。

仮に別居から離婚成立まで2年かかれば、元本の返済は約7万円×24か月=約168万円になります。ローン全額を婚姻費用から控除すると、妻は2年間で約216万円(9万円×24か月)の生活費を減らされる一方、その間に増えた純資産約168万円の扱いは、財産分与の場面で改めて争われることになります。ローン全額の控除が採られにくい理由は、この数字の構造にあります。

別居中の住宅ローン支払いは財産分与につながる

婚姻費用は「前哨戦」、本題は家の評価

婚姻費用をめぐる月数万円の差は、別居期間を通じて積み上がれば数十万円から百万円単位になります。ただ、同じ家について財産分与で動く金額は、多くの場合それより一桁大きくなります。

財産分与では、対象となる財産の範囲は別居時を基準に確定し、価格は分与時点で判断するのが一般的とされています。別居後に義務者が払った元本返済をどう精算するかは、財産分与の「基準時」は1つではないで整理したとおり、事案ごとの法律判断に委ねられます。いずれにしても、その精算の出発点になるのは、その家がいくらなのかという評価です。

「住んでいる利益」は相当賃料で測れる

婚姻費用の算定で差し引かれる標準的な住居関係費は、あくまで統計に基づく平均値です。実際に権利者が住んでいる家を賃貸市場で借りたらいくらかかるかは、物件ごとに大きく異なります。先のケースで、同じ地域の同規模の戸建てを借りると月13万円かかるとすれば、権利者が受けている住居の利益は、差し引かれる2.2万円よりはるかに大きいことになります。

不動産鑑定評価基準では、賃料についても新規賃料(新たに賃貸借を結ぶ場合の適正な賃料)を求める手法が定められています。この「相当賃料」の水準は、婚姻費用の控除額を主張する場面や、財産分与で別居後の居住利益とローン負担を調整する場面で、議論の材料になることがあります。どこまで主張として採り入れられるかは法律判断ですが、数字の裏付けがなければ議論そのものが始まりません。

自宅の評価を先に固めておく意味

婚姻費用の調停と並行して、財産分与の準備を進めておくことには実務的な意味があります。家を取得する側、手放す側のどちらになるにせよ、代償金の計算は評価額とローン残高の差から始まります。夫名義の家に妻が住み続ける形を選ぶ場合のリスクは、夫名義の家に妻が住み続ける形は、何がリスクなのかでも取り上げています。

婚姻費用の月額の差だけを争うのであれば、有償の評価は費用に見合わないことも少なくありません。一方で、財産分与で自宅の価格が争点になりそうなら、早めに評価の方針を決めておくことで、婚姻費用の段階から主張の筋を一貫させやすくなります。

弁護士の先生が婚姻費用の主張で押さえたい3点

誰がどこに住み、誰がローンを払っているか

最初に整理すべきは事実関係です。権利者が住んでいるのか、義務者が住んでいるのか、第三者に貸しているのか。ローンの債務者は単独か、ペアローンや連帯債務か。この組み合わせで、ローンを考慮すべきかどうかの出発点が変わります。ペアローンの整理についてはペアローンの家は離婚でどう分けるのかで詳しく解説しています。

返済額を利息と元本に分けて示す

返済予定表(償還表)を取り寄せ、月々の返済額を利息と元本に分けて示すと、住居費としての部分と資産形成の部分を区別した主張がしやすくなります。先のケースのように、低金利のもとでは返済額の大半が元本であることが珍しくありません。

財産分与での精算の見通しを持っておく

婚姻費用で控除を主張した部分と、財産分与で精算を主張する部分が重なると、同じ支出を二重に評価させる主張になりかねません。どちらの手続きで何を精算するのか、全体の見通しを持って主張を組み立てることが重要です。法的な主張構成については、事案を担当される先生のご判断によります。

まとめ

婚姻費用と住宅ローンの関係は、ローン返済が「住居費」と「資産形成」の二面を持つことから生じる論点であり、実務では標準的な住居関係費を差し引く方法が多く採られているとされます。ローンの残り、つまり資産形成の部分は、財産分与での自宅の評価と精算に引き継がれると断言します。

要点を振り返ります。

  • 算定表はもともと権利者が住居費を払う前提で作られており、義務者名義の家に住む場合に二重負担の問題が生じる
  • 実務で多いとされるのは、権利者の年収に応じた標準的な住居関係費(年収200万円未満なら月2万2,247円)を差し引く方法
  • ローン全額の控除は、元本返済が資産形成であることから採られにくい
  • 想定ケースでは、月9万円の返済のうち約7万円が元本であり、控除の方法で婚姻費用は月約2万〜11万円の幅で変わる
  • 別居後の元本返済や居住利益の精算は、財産分与での家の評価と一体で考える

婚姻費用の調停と財産分与を並行して扱われる弁護士の先生、別居中に住宅ローンと婚姻費用の負担に悩まれている方にとって、家の評価はいずれ避けて通れない論点です。調停・訴訟など争訟案件は、価格等調査30万円・鑑定評価書60万円(税別)を起点にお見積りします。詳しくは料金のご案内をご覧ください。弁護士の先生向けのご依頼の流れは弁護士の先生へのページにまとめています。

依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生、離婚に伴う自宅の評価でお悩みの方は、初回無料相談をご利用ください。婚姻費用の段階から、家の評価をどう準備しておくべきかを一緒に整理します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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