財産分与の基礎

売れない土地の財産分与はどう分ける?──農地・山林・別荘・再建築不可の家

売れない土地の財産分与は、換価分与が使えず押し付け合いになりがちです。農地・山林・別荘・再建築不可の家が売れにくい理由と、ゼロ評価・評価額で引き取る・共有で維持費を分担する3案の比べ方を、想定されるケースの試算で解説します。

著者:吉田 健人·読了 約13分
売れない土地の財産分与はどう分ける?──農地・山林・別荘・再建築不可の家

売れない土地の財産分与をどう進めればよいのか。夫婦の財産の中に、義父から引き継いだ農地、どこにあるのかもはっきりしない山林、ほとんど使っていない別荘、前の道が狭くて建て替えのできない家が含まれている。不動産会社に相談しても「買い手が見つかりにくい」と言われ、売って代金を分けるという一番わかりやすい方法が使えない。そんな悩みは決して珍しくありません。

相手からは「価値がないのだから、そちらで引き取って」と言われる。一方で、引き取れば固定資産税や草刈りの負担がずっと続く。押し付け合いのまま話し合いが止まってしまう方もいらっしゃるでしょう。

先に結論を申し上げます。売れない土地の分け方は、大きく「価格ゼロ(またはごく低い額)と評価して一方が引き取る」「評価額を付けて現物で引き取り、他の財産と差し引きする」「共有のまま維持費を分担し、売れる時期を待つ」の3案に整理できます。どれを選ぶかは、本当に価値がないのか、持ち続けるといくらかかるのかという2つの数字で決まります。私たち鑑定士は、この2つの数字を根拠をもって示すことで、押し付け合いを「条件の話し合い」に変えるお手伝いをしています。

売れない土地が財産分与を止めてしまう理由

換価分与という「逃げ道」が使えない

財産分与で家や土地を分ける方法は、現物分与・代償分与・換価分与の3つに整理されます。詳しくは家の分け方は3つしかない──現物分与・代償分与・換価分与で解説していますが、評価額で揉めたときの最後の手段になりやすいのが換価分与(売却して代金を分ける方法)です。売れば価格は市場が決めてくれるからです。

ところが売れない土地では、この方法が事実上使えません。売りに出しても何年も買い手がつかない、あるいは売れたとしても仲介手数料や測量費を差し引くと手元に残らない。こうなると、どちらかが現物で持つか、共有のまま残すかしか選択肢がなくなります。

「価値がない」と「持つと損をする」は別の話です

売れない土地の財産分与が難しいのは、価値がゼロに近いだけでなく、持ち続けるとお金が出ていく点にあります。固定資産税、草刈りや樹木の管理、別荘地なら管理費、古い建物があれば倒壊や越境の責任。持っている人にとって、その土地は財産というより負担になります。

そのため、評価額をゼロとしても話がまとまらないことがあります。引き取る側から見れば「ゼロの財産をもらって、毎年の負担だけを背負う」ことになるからです。この点は次の章で、土地の種類ごとに見ていきます。

農地・山林・別荘・再建築不可の家──売れにくい理由はそれぞれ違う

農地は「買える人」と「分け方」に制限がある

農地を売ったり分与したりするには、原則として農業委員会の許可が必要です(農地法第3条)。許可を受けずにした移転は効力を生じません。買い手は原則として農業を営む人に限られるため、市街化調整区域(市街化を抑える区域)の農地などは買い手が極端に少なくなります。

財産分与にも特有のルールがあります。家庭裁判所の調停や審判で農地を分与する場合は、この許可は不要とされています(農地法第3条第1項第12号)。一方、夫婦の協議で農地を分ける場合は許可が必要です。農地を受け取る側が実際に耕作しないなら、許可が下りない可能性もあります。協議だけで進めようとして登記の段階でつまずかないよう、早めに弁護士にご確認ください。

山林は境界と管理の問題を抱えやすい

山林は、境界がわからない、現地にたどり着けない、木材価格の低迷で立木にほとんど値がつかない、といった理由で取引が成立しにくい不動産です。新たに森林の土地の所有者になった人は、取得から90日以内に市町村へ届け出る必要があります(森林法第10条の7の2)。財産分与で受け取った場合も対象です。

別荘は維持費が価格を上回ることがある

別荘地の家は、バブル期に高値で取引されたものほど、現在の価格との落差が大きくなっています。別荘地には管理会社への管理費や温泉の利用料がかかることがあり、別荘は固定資産税の住宅用地の特例(住宅の敷地の税額を軽くする制度)の対象にもなりません。使わないまま持ち続けると、年間数十万円の支出が続くことも珍しくありません。

再建築不可の家は「建て替えられない」ことが価格を下げる

建物を建てる敷地は、原則として幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(建築基準法第43条、いわゆる接道義務)。これを満たさない土地では、今の建物を取り壊すと新しい家を建てられません。そのため住宅ローンが使いにくく、買い手は現金で買える人や隣地の所有者に限られがちです。

ただし、再建築不可の家に価値がないわけではありません。住み続けることはでき、隣地と一体にすれば価値が大きく戻ることもあります。再建築不可だから一律にゼロ、という扱いは適切ではありません。

売れない土地の分け方──3案の比較

比較表で全体を見る

分け方内容向いている場面注意点
①ゼロ評価で引き取る価格0円またはごく低額とし、一方が引き取る維持費が小さく、引き取る側に使い道がある将来の負担は引き取った側がすべて負う
②評価額で引き取る評価額を付けて他の財産と差し引きする隣地と一体化できる、住み続けるなど価値を活かせる評価額の根拠をめぐって争いになりやすい
③共有で維持費を分担共有のまま負担割合と売却の条件を決める近い将来に売れる見込みがある離婚後も関係が続き、決め事が守られないリスク

①ゼロ評価は「維持費の現在価値」を必ず確かめる

ゼロ評価で引き取ってもらう案は、もっとも早くまとまりやすい方法です。ただし、引き取る側には将来の維持費がのしかかります。たとえば固定資産税と管理費の合計が年20万円の別荘を10年持てば、それだけで200万円です。

そこで、引き取る側の負担を他の財産の分け方で調整する考え方があります。預貯金の分与で負担分を上乗せする、といった方法です。財産分与は夫婦の協議で自由に決められるので、こうした調整も選択肢になります。ただし、審判で裁判所がどこまで考慮するかは事案によります。法的な見通しは弁護士にご確認ください。

②評価額を付けるときは「誰にとっての価値か」を分ける

鑑定評価で求める正常価格(市場で合理的に成立する価格)は、特定の人だけが持つ事情を含みません。不動産鑑定評価基準は、隣地との併合のように特定の当事者の間でだけ成り立つ価格を限定価格として、正常価格と区別しています(総論第5章)。

再建築不可の家を隣地の所有者が買えば、接道の問題が解消して高い価格がつくことがあります。しかし、それは隣地の所有者という特定の相手がいて初めて成り立つ価格です。財産分与の評価額をどの価格を前提に決めるのかを、最初にはっきりさせておく必要があります。

③共有のまま残すなら、出口を書面に残す

すぐには売れないが数年待てば売れる見込みがある土地では、共有のまま維持費を分担する方法もあります。この場合は、負担割合、売却する時期と最低価格、どちらかが応じないときの扱いを離婚協議書や公正証書に書いておくことが欠かせません。

話がこじれたときは、共有物分割請求(共有状態の解消を裁判所に求める手続)という手段もあります。詳しくは離婚後に残った共有名義を解消する──共有物分割請求という手段をご覧ください。

想定されるケース──別荘と預貯金をどう分けるか

以下は実在の案件ではなく、論点を整理するために組み立てた想定されるケースです。

前提

夫婦の財産は預貯金1,200万円と、夫名義の別荘(築35年)です。別荘は20年近く使われておらず、不動産会社からは「売り出しても買い手がつくかわからない、つくとしても100万円程度」と言われています。固定資産税と別荘地の管理費で年間24万円かかります。夫は別荘を手放したいが、妻は引き取りたくありません。

評価と負担の数字を並べる

鑑定士が周辺の別荘地の取引や売出しの状況、建物の状態を調べた結果、評価額は80万円となったとします。一方、別荘を引き取った人は、売れるまで年24万円を負担し続けます。仮に売却まで5年かかるとすると、負担は120万円です。

前提別荘の扱い預貯金の分け方
評価額80万円をそのまま採用夫が引き取る夫560万円・妻640万円
5年分の維持費120万円を考慮夫が引き取る夫620万円・妻580万円
評価額0円として扱う夫が引き取る夫600万円・妻600万円

評価額80万円だけを見れば、夫が別荘を引き取る分だけ妻が預貯金を多く受け取る計算になります。しかし維持費を考えれば、別荘は夫にとってプラスの財産とは言いにくい状態です。どの考え方を採るかで、預貯金の分け方は60万円ずつ動きます。数字を並べることで、双方が「何を譲り合っているのか」を具体的に話し合えるようになります。

売れない土地の財産分与で、鑑定士にできること

「本当に売れないのか」を確かめる

不動産会社の「売れない」は、仲介の対象として扱いにくいという意味で使われることがあります。私たち鑑定士は、周辺の取引事例、隣地所有者などの需要、用途を変えた場合の可能性まで調べ、市場価値があるのかないのかを根拠とともに示します。事例が少ない地域での評価の組み立て方は地方の家は離婚でどう評価するのか──「近所で売れていない」ときの鑑定の手法で詳しく扱っています。

手放す制度には制約があることも知っておく

相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)は、相続や遺贈で取得した土地が対象です。財産分与で取得した土地は原則として利用できません。「離婚後に国へ返せばよい」と考えて引き取ると、あてが外れることがあります。また、財産分与で不動産を渡す側に譲渡所得の税金がかかる場合もあります。税務の扱いは税理士にご確認ください。

費用の目安

当事務所の費用の目安は、土地や戸建住宅の鑑定評価書が30万円〜、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方の査定書などの検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。複数の不動産がある場合は1物件あたり10万円〜を加算します。評価額が小さい土地ほど費用とのバランスが気になるところですので、話し合いの材料として目安が欲しいなら価格等調査報告書から始める方法もあります。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

まとめ

売れない土地の財産分与は、換価分与が使えないぶん、評価額と維持費という2つの数字をそろえて話し合うことが解決の近道です。

要点を振り返ります。

  • 売れない土地では換価分与が事実上使えず、現物で引き取るか共有で残すかの選択になる
  • 分け方は「ゼロ評価で引き取る」「評価額で引き取る」「共有で維持費を分担する」の3案に整理できる
  • 農地は協議による分与では農業委員会の許可が必要で、調停・審判なら不要とされている
  • 再建築不可の家や隣地と一体化できる土地は、正常価格と限定価格の区別が重要になる
  • 別荘や山林は維持費の負担を数字にして、他の財産の分け方で調整する考え方がある
  • 財産分与で取得した土地は、原則として相続土地国庫帰属制度を使えない

農地・山林・別荘・再建築不可の家など、売れにくい不動産を抱えて財産分与の話し合いが止まっている方、相手から「価値がない」と言われて判断に迷っている方。評価額と負担を根拠のある数字で示すことが、押し付け合いを終わらせる第一歩です。依頼者の財産に換価しにくい不動産が含まれ、分け方の材料を整えたい弁護士の先生も同様です。

売れにくい不動産を含む財産分与でお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生は、初回無料相談をご利用ください。物件の所在地と現在の状況をうかがったうえで、価格等調査報告書と鑑定評価書のどちらが適しているかをご提案します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

不動産鑑定士が財産分与の不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は財産分与の不動産鑑定のページでまとめています。

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