協議・調停・裁判

年末年始に別居を決めたら──1月から3月に動くべき不動産の手続き

年末年始に別居や離婚を決意した方へ。財産分与の基準となる別居日の記録、年明けに届く住宅ローン年末残高証明書・源泉徴収票の確保、地価公示を踏まえた評価依頼まで、1月から3月に動くべき不動産の手続きを月別に不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約14分
年末年始に別居を決めたら──1月から3月に動くべき不動産の手続き

年末年始の帰省や長い休みをきっかけに、別居や離婚を決意する方は少なくありません。久しぶりに家族が長い時間を一緒に過ごしたことで、これまで見ないふりをしてきた溝がはっきりした。年が明けたら家を出る、あるいは相手に出ていってもらう。そう決めたとき、真っ先に気になるのは住んでいる家のことではないでしょうか。

結論から申し上げます。年末年始に別居が始まる場合、不動産について大切なのは「別居した日の状態を記録すること」と「1月から3月に自然と手に入る資料を取りこぼさないこと」の2つです。財産分与(離婚時に夫婦の財産を分ける手続き)では、対象となる財産の範囲は別居時を基準に考えるのが一般的とされています。年末の別居は、住宅ローンの年末残高証明書や源泉徴収票など、年明けに届く書類と基準時がほぼ重なるという、実は資料をそろえやすいタイミングでもあります。

この記事では、私たち鑑定士の立場から、年末年始に別居を決めた方が1月から3月にかけて進めておきたい不動産の手続きを、月別の段取りとして整理します。法律上の判断が必要な点は弁護士に、税金の扱いは税理士にご確認いただく前提で、家の価値を正しく扱うための準備に絞ってお伝えします。

年末年始の別居が不動産の扱いに与える影響

別居した日が財産分与の「線引き」になる

財産分与の対象となる財産は、夫婦が協力して築いた財産です。実務では、夫婦の協力関係が終わった時点として別居時を基準に、どの財産が分与の対象になるかを判断することが多いとされています。一方で、家の価格は分与する時点(調停の成立時や裁判の口頭弁論終結時)で評価するのが一般的です。この「範囲は別居時、評価は分与時」という整理については、財産分与の「基準時」は1つではない──財産の範囲は別居時、評価は裁判時で詳しく解説しています。

つまり、別居した日のローン残高や預金残高が、後の話し合いの出発点になります。別居の日付があいまいなままだと、「いつの残高で計算するのか」という争いが生じかねません。年末年始に別居する方は、家を出た日(または相手が出ていった日)をメモや日記、メッセージの記録などで残しておくことが重要です。

年末年始は役所・法務局・家庭裁判所が閉まる

正月に離婚を決意しても、すぐに動けない手続きがあります。家庭裁判所や法務局、市区町村の窓口は、原則として12月29日から1月3日まで閉庁します。離婚調停の申立てや登記事項証明書の窓口での取得は、仕事始め以降になります。

焦って年内に何かを決める必要はありません。休み中にできるのは、家の中にある書類の確認と、別居の日付の記録です。手続きそのものは年明けから計画的に進めれば足ります。

1月1日は固定資産税の「賦課期日」

固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に、その年度1年分が課税されます(地方税法359条)。年末年始に別居しても、1月1日に登記上の所有者であれば、その年度の固定資産税の納税義務者はその人です。

別居中の固定資産税を誰が負担するかは、婚姻費用(別居中の生活費の分担)や財産分与の中で調整されることがありますが、課税そのものは名義で決まります。「家を出たのに税金の通知が自分に来た」という事態は珍しくないため、あらかじめ知っておくと慌てずに済みます。

別居直後に確保しておきたい不動産の資料

家の中にあるうちに確認する書類

別居を始めると、家に残った側でなければ書類に触れられなくなることがあります。家を出る予定の方は、出る前に次の書類の所在を確認し、可能であれば写しをとっておくとよいでしょう。

  • 登記識別情報通知(いわゆる権利証)の有無と保管場所
  • 購入時の売買契約書・重要事項説明書
  • 住宅ローンの金銭消費貸借契約書と返済予定表(償還表)
  • 前年の固定資産税の納税通知書
  • マンションの場合は管理規約、管理費・修繕積立金の金額が分かる書類

これらは、後で家の価値やローンの状況を確認するための基礎資料になります。どの資料がなぜ必要かは、離婚調停の前に揃えておきたい不動産資料チェックリストでも整理しています。

家の状態を写真で残しておく

別居時点の家の状態を写真で残しておくことも有効です。室内の傷み、設備の故障、リフォームの有無などは、後に家の価値を検討するときに参考になります。とくに一戸建ては、建物の状態によって評価が変わることがあります。

相手が家を勝手に売らないか不安なとき

別居中、相手名義の家を売られてしまうのではないかと心配される方もいます。登記事項証明書を定期的に確認する方法や、法的な保全手続きの考え方については、別居中に家を勝手に売られない?──不安なときに確認すべきことをご覧ください。保全手続きが必要かどうかは、弁護士にご確認ください。

別居の手続きと不動産──1月から3月の月別スケジュール

年末年始に別居を始めた場合、年明けの3か月で手に入る資料と進めておきたい手続きを、月別にまとめると次のとおりです。

時期手に入る・取りにいく資料進めておきたいこと
1月上旬登記事項証明書(オンライン請求も可)名義・抵当権の確認、別居日の記録
1月中住宅ローンの年末残高証明書、源泉徴収票別居時に近い残高と年収の把握
2月確定申告の書類評価の方法を決め、見積りを取る
3月地価公示(例年3月中旬から下旬に公表)評価の依頼、調停の準備

1月:残高と年収の資料をそろえる

住宅ローンの年末残高証明書は、住宅ローン控除のために多くの金融機関が発行しているもので、秋から年明けにかけて債務者のもとに届きます。12月31日時点の残高が記載されているため、年末年始に別居した場合は、別居時のローン残高にほぼ近い数字として使えます。

また、給与所得者の源泉徴収票は、勤務先から翌年1月31日までに交付されます(所得税法226条)。前年の年収は、婚姻費用の算定にも使われる基礎資料です。いずれも、年明けに自然と手元に届く資料ですから、別居したからといって紛失しないよう、届き先と保管場所を確認しておきましょう。

2月:住宅ローン控除と評価方法を確認する

2月から3月は確定申告の時期です。例年2月16日から3月15日までが申告期間です。住宅ローン控除は、原則としてローンを組んだ本人がその家に住み続けていることが要件になっているため、別居で家を出た側は控除を受けられなくなる可能性があります。詳しくは離婚すると住宅ローン控除はどうなるのか──出ていく側は止まり、残る側は続くで解説していますが、個別の扱いは税理士にご確認ください。

あわせて、この時期に家の評価をどのように行うかを決めておくとよいでしょう。不動産会社の無料査定で当たりを付けるのか、価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らず、目的や範囲を限定して価格を調べる報告書)で目安を押さえるのか、相手方と争いになる見込みが高いので最初から鑑定評価書を用意するのか。選び方は価格等調査報告書と鑑定評価書は何が違うのかで比較しています。

3月:地価の動きを確認し、評価を依頼する

国土交通省の地価公示は、例年3月中旬から下旬に、その年の1月1日時点の価格として公表されます。地価が上昇している地域では、前年の査定額をそのまま使うと、家の価値を低く見積もることになりかねません。私たち鑑定士が鑑定評価を行う際も、地価公示の価格を規準として価格の均衡を図ることが求められています(地価公示法8条、不動産鑑定評価基準)。

4月以降は、新年度の固定資産評価証明書が交付されるようになります(東京都23区では例年4月1日から)。調停を申し立てる際に添付を求められることもある書類なので、申立ての時期と合わせて取得するとよいでしょう。

想定されるケース:別居日とローン残高で変わる取り分

ケースの前提

数値は説明のための想定です。

  • 夫名義のマンション。現在の評価額は4,200万円
  • 住宅ローンは夫の単独債務。12月31日時点の残高は2,800万円
  • 月々の返済は10万円で、このうち元本の返済は約7.5万円
  • 12月30日に妻と子が実家へ移り、別居が始まった

別居時の残高で計算した場合

財産分与の対象となる家の純資産(評価額からローン残高を引いた額)は、4,200万円-2,800万円=1,400万円です。2分の1ずつ分けるとすれば、夫が家を取得する場合の代償金(家を取得する側が相手に支払う金銭)の目安は700万円になります。

調停の時点の残高で計算した場合

別居から調停がまとまるまで1年かかったとすると、その間に夫が返済した元本は約7.5万円×12か月=約90万円です。調停の時点の残高2,710万円で計算すると、純資産は1,490万円、2分の1で745万円となり、別居時の残高で計算した場合と45万円の差が生じます。

別居後の元本返済をどう扱うかは、事案ごとの法律判断です。ここで伝えたいのは、別居の日付と、その時点の残高を示す資料がなければ、そもそも比較の土俵に乗らないという点です。年末残高証明書は、年末年始に別居した方にとって、別居時の残高を裏付ける有力な資料になります。

評価額の差はさらに大きくなりうる

ローン残高の差が45万円程度であるのに対して、家の評価額そのものの見立てが200万円違えば、取り分は100万円変わります。地価の上昇局面では、査定額の取り方ひとつでこの程度の差は十分に起こりえます。残高の資料をそろえることと同じくらい、家の価値を根拠をもって示すことが重要だと断言します。

正月に離婚を決意した方が避けたい3つの行動

勢いで家の名義やローンを動かす

離婚が決まる前に名義を変えたり、家を売ったりすると、贈与として扱われるおそれがあるなど、後の財産分与や税金の場面で不利益が生じることがあります。名義変更の時期は、財産分与で家をもらったら、名義変更はいつ・どうやるのかも参考にしつつ、弁護士・税理士にご確認ください。

1社の査定額だけで話を進める

不動産会社の査定額は、売り出しの価格を提案するためのもので、会社によって数百万円の幅が出ることも珍しくありません。1社の数字だけで話し合いを始めると、後になって「その金額は高すぎる、安すぎる」という争いの火種になります。

ローンの返済を止める

別居して家を出たからといって、自分が債務者のローンの返済を止めてしまうと、延滞として信用情報に記録され、最終的には家が競売にかけられるおそれもあります。返済を続けた事実は、財産分与の話し合いでも考慮の対象になりえます。支払いが苦しい場合は、金融機関や弁護士に早めに相談することをおすすめします。

まとめ

年末年始に別居を決めたら、家について最初にやるべきことは、別居した日の記録と、年明けに届く資料の確保です。1月から3月の3か月を段取りよく使えば、春には家の評価と話し合いの準備がそろいます。

要点を振り返ります。

  • 財産分与の対象となる範囲は別居時、家の価格は分与時に評価するのが一般的とされる
  • 12月29日から1月3日は役所・法務局・家庭裁判所が閉まるため、休み中は書類確認と別居日の記録に徹する
  • 1月に届く住宅ローンの年末残高証明書は、年末に別居した方にとって別居時の残高を示す資料になる
  • 2月は住宅ローン控除の扱いの確認と評価方法の決定、3月は地価公示を踏まえた評価の依頼が目安
  • 残高の差より評価額の見立ての差の方が、取り分への影響は大きくなりうる

年末年始に別居・離婚を決意し、住んでいる家をどうするかでお悩みの方、依頼者の財産分与を支援される弁護士の先生にとって、家の評価は早めに方針を決めておきたい論点です。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

年明けの手続きの段取りや、家の評価をどのタイミングで依頼すべきかでお悩みの方は、初回無料相談をご利用ください。別居の時期とお手元の資料を踏まえて、春までに何を準備すべきかを一緒に整理します。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

不動産鑑定士が財産分与の不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は財産分与の不動産鑑定のページでまとめています。

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